ワイン選びで迷子になっている皆さんへ
「大切な友人への手土産にワインを」。そう思って売り場に行ったものの、赤にするか白にするかは決められても、その先がなかなか進まないという経験はありませんか。
ラベルには読めない外国語が並び、値段もピンキリです。「せっかくだから喜んでもらえるものを選びたい」と考えても、中身の想像がつかないからどうしようもない。ワインを選ぶ経験をした人なら、誰もが通る道だと思います。
第30回で、ポイントだけ押さえるワインラベルの見方をお伝えしましたが、ご自宅用ならまだしも、記念日や人に差し上げるワインとなると、余計に悩みますよね。そこで提案したいのは専門店での購入です。
専門店では、多種多様なワインを扱っていますし、ワインの資格を持った専門家が接客をしていることがほとんどですから、自分が分からない部分も含めて相談ができるというわけです。ただ、良いものが見つかりそうではあるものの、今度は「何を聞かれるんだろう」「詳しくないのに入って大丈夫かな」と、別の緊張が生まれてしまうという声もよく聞きます。まだまだ、日本ではワインが敷居の高い飲み物として扱われているということでしょう。確かに、ビールや日本酒より高額なことが多いですし、それも仕方がないのかもしれません。
ですが、専門店でワインを選ぶときに、ワインの知識を身に付けてから行く必要はありません。産地やブドウ品種を知らなくても大丈夫です。ソムリエである私も含め、専門店のスタッフの方々がワインをおすすめするときに知りたいのは、「どんな場面で、どんなふうに楽しみたいのか」ということ。その手掛かりがあるだけで、ご提案するワインはずいぶん変わってきます。
今回は、普段のおうち飲み、特別な日、ホームパーティーの手土産という3つの場面に分けて、専門店でどんなことを伝えれば、みなさんが思い描いたワインを手にしやすいのかをお話しします。次のお買い物でそのまま使える頼み方も交えながら、上手なワイン選びのコツをお伝えしましょう。
大事なのは「予算」と「どんな時に飲むか」

専門店でスタッフの方に声をかけるとき、最初に伝えていただきたいのは、予算と飲む場面です。「自宅の夕食用で、一本2,000円くらいまで」「友人への手土産で、3,000円から4,000円くらい」。まずはこれだけでも十分です。
私がレストランで接客をしている時に感じることは、「予算を言うのは恥ずかしい」と思われている方がけっこう多いということです。ですが、前述の通りワインの価格はピンキリです。予算を伝えないと、専門店のスタッフもどのレベルのワインを紹介すれば良いか分からず困ってしまいます。金額を直接伝えるのがどうしても嫌な場合は、レストランのワインリストを指でさして価格帯を伝えるように、ショップに並ぶワインの一つを値段の目安としてスタッフに伝えるのが、分かりやすくてスマートです。ご自身が気持ちよく買える範囲で伝え方を考えてみてください。
予算を伝えれば安心して選べますし、気に入ったのに「実は予算オーバー」なんてことも防げます。上限が決まっているなら、「税込みでここまで」とはっきり伝えて大丈夫です。その方が勧める側にはとてもありがたいのです。
そのう上で、赤か白か、どんな料理と飲むのか、どんな味が苦手なのかを、分かる範囲で付け加えましょう。全部決めてからお店に行く必要もありません。「料理は決まってるけど、赤と白は迷ってる」でも良いですし、「ワインに詳しくないので、赤白含めて相談したい」でも全く問題ありません。
相手はプロですが、注文するときに頑張る必要はありません。ご自身の悩みを素直に伝えてみることです。
では、ここから場面別に希望のワインにたどり着くためのコツを見ていきましょう。
おうち飲みワインは「今日のおかず」から

さて、最初は普段のおうち飲みワインです。ここで私がおすすめしたいのは、いつもの食卓で無理なく楽しめるワインをイメージしてほしいということです。ワインを買うからといって、わざわざ特別な料理を伝える必要なんてありません。夕食の買い物のついでに、その日のおかずに合う一本を探す。そんな選び方で十分です。
たとえば、「今夜は鶏肉です」と伝えるだけでも手掛かりになりますが、もう一歩進んで、どう料理するかまで伝えると、スタッフの方もさらに選びやすくなります。同じ鶏肉でも、塩とレモンでさっぱり食べるなら爽やかな白ワイン、甘辛い照り焼きにするなら果実味のある軽めの赤ワインやロゼ、クリーム煮にするなら少しコクのある白ワイン、といった具合に候補が変わります。コツとしては、「食材」に「味付け」を添えることで、相談がぐっと具体的になることです。
そういう意味では「肉じゃが」とか「カレー」とか、料理名を伝えるのもアリです。カレーにおすすめできるワインだってちゃんとあるんですよ。
次に伝えていただきたいのが、好きな味、そして苦手な味です。ただ、好きなワインを言葉にするのは、慣れていないと案外難しいものです。「美味しかったけれど、どう美味しかったかと聞かれると分からない」といった言葉は、私もお客様からよく聞きます。そういう時は苦手なワインのタイプだけ伝えてしまいましょう。
「赤ワインは好きだけど、口の中がキュッとなるような渋いものは苦手」「白ワインなら、酸っぱさが強すぎないものを」。これだけでも十分です。
ここで一つ注意点があるのですが、「飲みやすいワインをください」という頼み方はおすすめできません。一見分かりやすいように聞こえますが、人によって飲みやすさの基準が違うので、それだけでは自分にとって飲みやすいワインが紹介してもらえるとは限らないからです。やはり慣れてきたら、少しずつ好みを言葉にして伝えてみましょう。「甘くないけれど、渋味は控えめ」「軽めだけれど、味が薄い感じは苦手」。多少わがままに聞こえるかなと思っても、そのまま伝えいただいて大丈夫です。その細かい違いこそ、ワインを選ぶための大事なヒントになります。
お店での頼み方をまとめるなら、こんな感じです。
「今夜の鶏の照り焼きに合わせたいです。税込み2,000円以内で、甘くなくて、渋味が強すぎないものをお願いします。赤かロゼで迷っています」
これだけ情報があれば、スタッフの方も紹介したいワインが頭に浮かんできているはずです。今日のおかずを伝えることが、ワイン選びの近道になりますよ。
特別な日は「高額」より「嬉しい」を

続いては、お誕生日や結婚記念日など、特別な日のワインです。こんな日は「せっかくだから、いつもより良いものを」と思いますよね。もちろん、少し予算を上げて、普段は手に取らないワインを楽しむのも素敵です。ただ、ここで知っておいていただきたいのは、価格が上がれば、そのまま自分の好みに近づくわけではないということです。
たとえば、爽やかでフレッシュなスッキリとした白ワインが好きな方が、熟成して複雑かつコクのある高級ワインを飲んでも「いつもの方が好きだなぁ」と感じるかもしれません。それは味が分からないからではなく、好きな方向が違うだけです。
特別な日だからこそ、まずは普段の好みを土台にしてみましょう。ここで使えるのが、普段飲んでいるワインをスタッフの方に伝える手法です。
具体的には「このワインが好きなので、似た方向で少し良いものを紹介してください」と、ワインの銘柄を伝えることです。ラベルの写真などがあればなお良いでしょう。
さらに、もしワインにストーリー性を持たせたいのなら、もう一つ情報を加えてみましょう。たとえば、結婚記念日なら新婚旅行で訪れた土地の名前、誕生日なら自分の好きな国などです。「このワイン、現地で飲んだのが懐かしいね」と会話が始まるシーンを、私もレストランで何度も目にしたことがありますが、その度にワインは値段だけでは得られない素晴らしさがあるなぁと感じます。
ちなみに、記念の年のワインを探すという選択もありますが、その場合は少し早めに相談するのがおすすめです。年号が一致するワインが、今まさに美味しく飲めるとは限りません。時間がたちすぎていて見つからなかったり、高価すぎたり、逆に若すぎて飲み頃がまだ先なんてパターンもあるからです。そんなワインを注文したい場合は「いつ飲むか」も伝えて、少し時間をかけて相談してみましょう。ワインの市場は流動的です。古いお酒は特にですが、時間をかけた方が目的のワインが見つかる可能性も上がります。
さて、頼み方の具体例ですが、こんな感じがおすすめです。
「特別な日に、自宅でローストビーフと一緒に飲みたいです。予算は税込み5,000円まで。普段はこのワインが好きでよく飲むのですが、同じようなワインでより良いオススメはありませんか? できればこの産地のワインで、来週末に開けて楽しめるものを探しています」
ここまで伝えればバッチリです。
加えて購入後に、「どんな飲み方をすると良いか」のアドバイスを求めてみてください。特別な日のワインを、より一層楽しめるコツも教えてもらえます。
手土産の一本は「飲み手」のことを考える

さて、ここまでの話で、専門店のワイン選びでスタッフの方に伝えるべき内容が、だいぶ分かっていただけたのではないでしょうか。最後に「手土産のワイン」についてお話しますが、基本的な部分はここまでお伝えしてきた方法で十分です。ですが、「手土産」ならではの注意点がありますので、そこを見ていきましょう。
まず、「自分が飲みたいワイン」と「その会で喜ばれるワイン」は違うかもしれないということ。そして、その場でみんなと「飲む一本」なのか、招いてくださった方に後日楽しんでもらう「贈り物」なのか、という違いです。前者ならその日の料理や参加者との相性、後者なら受け取る方の好みを考慮する必要があります。ここが曖昧だと、せっかく良いワインを選んでも、相手の方々の心にヒットしないこともあるからです。
気軽に聞ける間柄でしたら、「ワインを持っていこうと思うけれど、何を持っていくのが良い?」「当日はどんなお料理の予定?」と、ひと言聞いてみるのも良いでしょう。情報が手に入れば、「すでに赤ワインを用意しているみたいだから、白か泡にしよう」「乾杯用が欲しいみたいだからスパークリングワイン」と選ぶのも楽になります。
スタッフの方に相談する時は、参加人数や、普段からワインを飲む方が多いのかも伝えてみましょう。ワインには素人受けするものや、逆に玄人受けしかしないものもありますので、スタッフの方も会の嗜好にあったワインがより選びやすくなるはずです。
では、好みや料理があまり分からない場合は、何を選べば良いでしょうか。乾杯用が必要な会でしたら、私はまずスパークリングワインを候補にします。泡のあるワインは見た目にも華やかですし、どんな食事にも合わせやすいというメリットがあるからです。
シャンパンに限らず、イタリアのプロセッコやスペインのカヴァなど、価格帯も豊富ですから、予算に合うものを探してもらえばOKです。その際、スッキリ辛口が良いのか、フルーティーなタイプが良いのか、コクのあるタイプが良いのかなど、具体的な相談ができれば、あなたはもうワイン選びの上級者です。また、贈り物の場合であってもスパークリングワインは贈りやすいワインの一つです。好みに左右されにくいですし、少し良い贈り物をと思った時でも、価格帯が豊富なので予算にあったものを選びやすいのも利点です。
また、困った時のワインとして、もう一つのオススメはロゼワインです。ピンクの華やかな色調は宴席の彩りになりますし、日本はあまりロゼ文化が定着していないので、他の人のワインとかぶることが少ないからです。そして、こちらも色々な料理に合わせやすいのが特長です。銘醸地であるフランス・プロヴァンス地方のロゼには価格やタイプも含めて色々なものがありますから、きっと良い一本を紹介してもらえるはずです。
ワイン好きが集まる会なら、少し個性的な産地や品種を店員さんに相談するのも面白いでしょう。反対に、ワインに慣れていない方が多い場では、珍しさより飲む方の好みに合わせることを優先しましょう。
もう一つ、手土産で見落としやすいのが、持っていった後の扱いやすさです。古いワインは、運ぶことで中の澱が舞ってしまい、当日飲むのには向いていません。古いコルクは開栓も大変だったりしますので要注意です。「持参して、その日にすぐ楽しめるものを」と伝えておきましょう。
また、白や泡を持っていくなら、冷やして持参するか、先方で冷やす時間があるかも考えておくと親切です。暑い日の移動なら保冷バッグを使うなどして、せっかくのワインを温めすぎないようにしましょう。贈り物として渡す場合は、袋や包装の希望も伝えておくと、買い物がスムーズです。
最後に、具体的な頼み方です。
「友人宅の持ち寄り会に持っていくワインを探しています。料理はサラダや鶏肉が中心らしいので、そういったものに合わせたいです。参加者のほとんどが、普段からワインを飲む方なので、税込み3,000円くらいで、少し珍しい産地の辛口の白かロゼをお願いします」
ここまで伝えればスタッフの方もバッチリおすすめのワインを紹介してくれるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ここまで、ワイン選びを3つの場面に分けてお話してきました。
最後に、自分の好みのワインを選んでもらうのに役立つ3つのコツをお伝えして、まとめとしたいと思います。
- 気に入ったワインのラベルを写真に残す
- 好きなワイン、苦手なワインの特徴をメモしておく
- 買った後の感想を、次にお店へ行った時に伝える
この3つです。
予算や好みを気軽に話せて、説明が分かりやすい。そんなスタッフの方やお店に出会えたら、大切にしてみてください。一から悩まなくても、「前の一本より少しすっきりしたものを」といった相談までできるようになります。自分の好みを知ってくれる人がいることは、ワイン選びの心強い助けになるはずです。
ここまでお話したように、皆さんそれぞれの暮らしの情報が、ワイン選びではとても役に立ちます。スタッフの方が知りたいのは、皆さんがどれくらいワインに詳しいかではなく、どんな一本なら喜んでもらえるかです。「こんな頼み方で良いのかな」と考えすぎず、まずは気軽に相談してみてください。
「今日はこんな料理とワインを飲みたいんです」という一言だけで、お気に入りの一本が見つかるかもしれません。このコラムが、皆さんのワイン選びを少し気楽に、そして食卓を楽しくするお手伝いになれば幸いです。
監修
牧野 重希(まきの しげき)
吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。
RISTORANTE IMAI:http://www.ristoranteimai.com/
- ・2013年 ソムリエ取得
- ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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