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くまもると学ぶ! 知っ得マンション生活 外壁の修繕・改修工事

マンション生活

居住生活をさまざまな側面から守る上で重要な役割を担うマンションの外壁は、塗装が剥がれたり、タイルの浮きやひび割れが目立ったり、築年数が経過するほど劣化していきます。居住者が快適に暮らすためには定期的な補修が大切で、それ故、大規模修繕工事では外壁の修繕が重要な項目のひとつに位置づけられています。外壁の修繕工事の内容や工法について、その道のスペシャリストたちに座談会形式で話を聞きました。

教えてくれた人

小寺 努さんエスケー化研株式会社
営業技術チーム
課長

福山 明久さんエスケー化研株式会社
改装開発チーム
課長代理

青木 健太郎さんコニシ株式会社
ボンド営業本部
東京ボンド営業部 土木建設部建設グループ
リーダー

仁平 満男日本ハウズイング株式会社
西日本事業部
営繕部長

エスケー化研株式会社

建築仕上塗材国内シェアNo.1を誇る建築塗料・建築仕上材の総合メーカー。環境に配慮した塗料を業界に先駆けて開発するなど、次世代型商品も多数。

エスケー化研株式会社


コニシ株式会社

化学業界の老舗企業で、ボンド製品の総合メーカー。マンションの大規模修繕工事における外壁の補修材やシーリング材を中心に品質向上や長寿命化に貢献。

コニシ株式会社

マンションの安全と美観を保つため、適切な時期に工事を

マンションの外壁仕上材は建物の美観を保つだけでなく、雨風や紫外線から建物(コンクリート)を保護する重要な役割を担っています。しかし、紫外線、雨水、地震といった物理的な要因や時間の経過とともに、ひび割れや塗膜の剥がれ、タイルの浮きといった劣化が生じてきます。これらの劣化を放置すると、建物(コンクリート)に雨水が浸入し、コンクリートの中性化が進行したり、鉄筋が錆びてコンクリートを押し出す爆裂を起こすなど、建物の寿命を縮めることになります。

それを防ぐためには、12~15年の周期で行う大規模修繕工事で、事前の計画に基づき、外壁を修繕・改修する必要があります。日本ハウズイングでは、年に1回外観点検を実施しており、外壁や防水などの劣化状況を目視などで確認。築年数が10年程度経過した建物については管理組合へ現在の劣化状況を報告するほか、外壁補修の計画時期であることをお伝えし、簡易打診や触診、コンクリートの中性化試験、塗膜引張試験、シーリング材の試験といった劣化診断をご提案しています。(仁平)


QUESTION 01外壁の補修工事では、どんなことをするの?

仁平:マンションの多くは鉄筋コンクリート造です。そのコンクリートにひび割れが発生すると、建物の内部構造にさまざまな問題が生じるので、ひび割れた箇所にエポキシ樹脂やシーリング材等を充填し、ひび割れを埋めていきます。

小寺:コンクリート躯体側の浮きを補修する場合もありますよね。一見すると浮いているようには見えないですが、何らかの衝撃が加わったり爆裂(下写真)が生じたりすると、剥落するケースも。それが高所であれば居住者や通行人に危険が及ぶリスクもあるので、修繕工事以前に、打診調査で浮きを見極めることが大切だと思います。

青木:剥落でいうと、タイルもそうですね。築年数が経過するにつれて接着力が弱まり、浮きや剥がれといった不具合が発生します。剥落は重大な事故につながりかねないので、特に居住者や通行人が通る道路に面した外壁は、浮いているタイルとコンクリートの間に樹脂の接着剤を注入して接着したり、部分的にタイルの貼り替えを行ったりします。

仁平:ほかにも、外壁の目地やサッシ廻りのシーリング材が劣化していると雨水が浸入する原因になるので、古いシーリング材を撤去して新しくシーリング材を充填したり、既存塗装の種類、劣化の状態、工事対象部位に合わせて塗料を選定し、美観の回復や劣化防止、防水効果を高めたりするために外壁の塗装を行います。


QUESTION 02補修や改修を機に外観の見栄えをよくすることはできる?

福山:例えばエントランスのような、居住者の目が届きやすい部分、マンションの印象を左右する部分について、「高級感を出したい」「グレードアップさせたい」といったご要望をよくいただきます。その際には、樹脂を固めた塗料のシートで外壁の意匠性を高める工事をご提案するのですが、管理組合様にはCGを使って仕上がりイメージを3パターンほどお見せして、総会で決議していただきます。

小寺:高級感でいうと、大理石を思い浮かべていただくと分かりやすいと思います。本物の石を使って丸柱を改修しようと思うとかなり大変ですが、シート状にした石材調の吹きつけ塗料なら、柔軟性があるので丸柱のような曲面にもスムーズに貼り付けることができます。ほかにも、コンクリートの打ちっぱなし風の外壁を新築当初のようにキレイにしたいという場合などに、コンクリート模様を模倣して塗装を施す工法を採用する事例も増えてきました。

福山:私たちはこれを、コンクリートの美観・質感を復元するファンデーション保護工法と呼んでいます。コンクリートの打ちっぱなし風の外壁が経年劣化でかなり汚れている場合、コンクリートの風合いを生かす修繕方法は透明の塗料による塗装しかないのですが、クリアな塗料では汚れを見えなくすることはできません。そこで、上からコンクリート調の塗装を施すことで、汚れが見えないコンクリート調のキレイな外壁がよみがえります。

仁平:大規模修繕工事は建物こそキレイになりますが、大きな変化は感じにくいものです。だからこそ、エントランスなど一部分だけでも意匠性を上げると、築年数が経過した建物ほど、マンションの見た目に変化が生まれて、居住者の皆様にも喜んでいただけることが多いです。

Before
After

小寺:一度貼ったシートの上から塗装もできるので、次の修繕のタイミングで劣化が軽微だった場合、上から普通に塗装するだけで補修は十分、といったケースも考えられます。もちろん、左官材料などで下地を作れば上からまた違うシートを貼ることも可能なので、トータルで考えると、シートのほうがタイルより自由度が高いと思います。

仁平:作業の際の安全性が高いのも、大きなメリットですね。

福山:そうなんです。外壁にシートを貼っていくだけなので、作業している横を居住者の皆様は普段どおり通ることができます。石材調といえば、かつてはコンプレッサーで外壁に塗料を吹き付けていたのですが、周囲は汚れるし、コンプレッサーの音はうるさいし、改修工事にはあまり向いていなかったんです。そういう意味で、シートは汚れも騒音もなく、改修工事向きの素材だと思います。


QUESTION 03タイル張りの外壁を維持したいときは?

青木:タイルの修繕における難点の一つは、打診調査で確認した浮きの数量よりも、実際に足場を組んで詳細調査を行った際に、浮きの数量が当初の想定を大きく上回る場合があることです。浮きや剥落があるたびにタイル一つ一つを貼り替えると費用がかかるため、状況によりアクアバインド工法という、特殊なアンカーピンでタイルの一部をコンクリート躯体に固定し、透明なウレタン樹脂を塗り重ねてタイルが落ちないよう一体化する工法があります。剥落を防止するとともに既存のタイルの風合いを生かすことができるので、近年需要が高まっています。

仁平:剥がれてから対処する「事後保全」ではなく、いわゆる「予防保全」ですね。今はまだ貼り替えをするマンションの方が多いですが、広い範囲で浮きや剥がれが見られるときは、アクアバインド工法で施工したほうが、工事中の騒音や費用面を含め、メリットが大きいかもしれませんね。

青木:はい、そういった観点からも需要が増えているのだと思います。

仁平:タイルは修繕が大変ということもあり、逆に、タイルを全部隠したいという要望もありますよね。

青木:そうですね。その場合は、同じ剥落防止工法であるカーボンピンネット工法という、既存のタイルの上から特殊なモルタルや繊維ネット、アンカーピンを使用して躯体と一体化した下地を作り、その上に塗装をして新たな外壁に仕上げる方法をご提案します。

福山:塗装の代わりに、先程のシート状の塗料を貼り付けることも可能ですよ。

青木:そうですね。そのような仕様にもできます。既存タイルの風合いを生かすアクアバインド工法、外壁をリニューアルするカーボンピンネット工法は、「外壁複合改修工法」といい、劣化部分のみを部分補修する従来の方法と比較して、剥落事故防止の信頼度が高いとされています。


QUESTION 04居住者が日頃からできることはあるの?

仁平:ベランダなどに付着した鳥の糞や植物の樹液といった汚れは、手の届く範囲で日頃から清掃しておくといいと思います。

小寺:とはいえ、大きな外壁面はやはり難しいと思うので、修繕・改修工事で塗り替えをする際には、汚れの付きにくい塗料を選択するのもひとつの方法です。また、耐候性(紫外線や雨などの天候がもたらす要因に対する耐久性)の高い塗料も、表面劣化が生じにくいので、おすすめです。

仁平:まさに「予防保全」ですね。ほかにも、外壁に膨れや剥がれ等異常がないか定期的に目視で確認し、気になる箇所があれば、管理組合を通して管理会社に伝えるといいでしょう。劣化がひどくなったり、何か起きてからでは、居住者の皆様の生活に支障が出るだけでなく、修繕費用も高額になることがあります。そうならないためにも、修繕は計画的に、適切な時期に行うことをおすすめします。

写真提供/コニシ株式会社、エスケー化研株式会社

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