写真提供/pixta
マンションの組合員が毎月支払う費用の一つに、修繕積立金があります。マンションの外壁、屋上、エントランスなどの共用部分の修繕を行うために、毎月一定額を積み立てるものですが、昨今、この修繕積立金が不足するマンションが増えています。修繕計画が進み始めてから慌てないために、今からできる対処法や、なぜ修繕積立金が不足してしまうのかを聞きました。
教えてくれた人

若杉 達矩日本ハウズイング株式会社
事業統轄本部 建物管理部
マンション企画グループ
統括マネージャー
修繕積立金の見直しと将来に備えるために
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によると、長期修繕計画上の修繕積立金の積立額に比べて実際の積立額が不足しているマンションは、全体の36.6%に上ります。さらに、不足の割合が20%を超えているマンションは11.7%存在します。こうした事態を未然に防ぐために、日本ハウズイングでは、長期修繕計画書の必要性を説明し、作成のお願いをしています。その長期修繕計画書に基づいて積立額の見通しをチェックし、必要があれば積立額が不足する可能性について管理組合にお知らせしています。また、長期修繕計画書は5年に1回の見直しを提案しています。
修繕積立金の積立不足を防ぐ最も確実な方法は、毎月の積立金額を適切に引き上げることです。しかし、これには管理組合の合意が必要となるため、管理組合役員だけはでなく、すべての組合員が長期修繕計画の内容や、現在の修繕積立金の状況を理解することが重要です。日本ハウズイングでは、毎年実施している共用部分の外観点検の結果を理事会等でご報告しています。その際には、建物の現状や今後の修繕の必要性、修繕積立金の積立状況についても、併せてお伝えしています。
QUESTION 01なぜ修繕積立金の積立額が不足するの?
修繕積立金の積立額が不足してしまう背景には、主に次のような要因があります。これまで多くのマンションでは、分譲時に毎月の管理費や修繕積立金の金額を抑え、購入しやすく見せる傾向がありました。その結果、分譲当初から実際にかかる修繕費用に対して修繕積立金が不足する設定になっていることが少なくありません。

さらに、近年は建築資材の価格や工事にかかる人件費が大幅に上昇しています。特にここ数年は建築資材価格の高騰が顕著で、修繕工事にかかる費用が以前に比べて大きく膨らんでいます。これにより、かつては足りていた修繕積立金でも現在の相場では不足してしまうことも。今までは何とか修繕工事を実施できていたマンションでも、資金不足により工事が延期・中止されるといった深刻な事態に陥るケースが出てきています。修繕費用の上昇が止まらない中で、「必要なのに工事ができない」状況が現実のものとなりつつあります。
また、長期修繕計画書を基に将来必要になるだろう修繕費を積み立てる方法は2つあります。新築時や計画期間開始当初の負担を軽くし、段階的に積立額を増やしていく「段階増額積立方式」と、将来的な費用の増加にも対応できるよう、計画期間開始当初からやや高めに設定し、計画期間中の金額を均等とする「均等積立方式」です。
1980年代には、「均等積立方式」を採用するマンションが過半数を占めていました。しかし、2000年以降は「段階増額積立方式」を採用するマンションが主流となり、現在ではその割合が過半数を占めています。この「段階増額積立方式」は、初期費用を抑えられる反面、将来的な値上げが必要となります。実際には、途中での増額に対する組合員の同意が得られず、修繕積立金が不足してしまうケースが多く見られます。こうした事情も、修繕積立金の不足が生じる一因となっています。
このような課題を受けて、近年では新築マンションの分譲時に「均等積立方式」を採用するよう促す動きも出てきています。実際に、自治体が「均等積立方式」の導入を努力義務として定めている地域もあります。長期的に安定した修繕計画を実現するための一つの対策として注目されています。
QUESTION 02修繕積立金が不足するとどうなるの?
十分な資金が確保できないと、築年数を重ねた建物に対して必要な修繕工事を実施できなくなります。その結果、建物の安全性が低下したり、美観が損なわれたりして、マンション全体の資産価値が下がる可能性があります。また、資金不足により、計画していた時期よりも修繕工事を後ろ倒しにすると、その間に建築資材価格や人件費がさらに高騰する恐れがあります。
結果として、当初の予定よりも多くの費用がかかることになり、資金のやりくりがより難しくなります。資金の制約から、優先順位の高い箇所から順に少しずつ修繕を進めるケースもあります。しかしこの方法では、その都度足場を設置したり、作業員を手配したりする必要があるため、かえってトータルの修繕費用が高くなることもあります。
QUESTION 03修繕積立金の不足を防ぐために、管理組合にできることは?
まずは、建物全体の維持管理を見据えた長期修繕計画書を作成し、それを基に修繕工事の内容や時期、費用をしっかり検討することが必要です。加えて、建築資材価格や劣化状況の変化に対応できるよう、少なくとも5年に1回を目安に長期修繕計画書を見直すことが推奨されます。
また、管理組合役員には任期があるため、役員が交代することで、進行中だった修繕計画が中断・頓挫してしまうリスクもあります。こうした事態を防ぐために、理事会とは別に、「修繕委員会」や「長期修繕計画検討委員会」などの専門委員会を設置し、継続的に修繕に関する検討を行う体制を整えることが望ましいです。
修繕積立金の現状や、将来予測される工事費用について、組合員一人一人にしっかりと情報を伝えることも重要です。定期的な総会や掲示板、ニュースレターなどを活用し、修繕の必要性と修繕積立金の役割を周知する働きかけを行うとよいでしょう。

QUESTION 04管理組合の収入を増やすことはできないの?
マンション内の駐車場に空きが多い場合、そのまま空けておくのではなく、居住者以外の外部の方に貸し出すことで、収入を得るという方法があります。月極駐車場として外部に開放することで、管理組合の安定した副収入となり、修繕積立金の補填にもつながります。
ただし、防犯面や管理上のルール整備が必要なため、事前に十分な検討と合意形成が求められます。

修繕積立金を安全に管理・運用する手段として、独立行政法人 住宅金融支援機構が発行する「マンションすまい・る債」を購入する方法もあります。国の認可を受けた住宅金融支援機構が発行する10年満期の債券で、元本保証はないものの、毎年1回、定期的に利息が支払われ、リスクが比較的低く、安全性の高い運用手段です。長期で保有することで、修繕積立金が着実に増える可能性が高く、修繕積立金を眠らせず、効率よく活用できるので選択肢の一つとして検討する価値があります。
「マンション生活」⼀覧へ戻るHOUSING NEWSハウズイングニュースとは
私たち日本ハウズイングと、 管理マンションにお住まいの皆さまをつなぐコミュニティマガジンです。