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読むだけで美味しくなるワインの話(第20回 おうちワインの楽しみ方 ~ワインの飲み頃と熟成期間編~)

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ワインを美味しく飲むタイミングとは

今回も、「おうちワインの楽しみ方」としてワインを美味しく飲むコツをお伝えしてまいります。
第15回でもご紹介しましたが「ワインの味わいに影響を与える要素」は次の5つです。

  • 温度(ワインの温度、室温など)
  • 一緒に食べる料理(飲むワインとの相性など)
  • タイミング(飲み頃、抜栓のタイミングなど)
  • グラス(厚みや形状)
  • シチュエーション(誰とどんなワインを飲んでいるか)

今回のテーマは前回から引き続き「ワインを飲むタイミング」です。特に、ワインの適正な熟成期間や長期保存方法について触れていきたいと思います。

ワインは何年熟成させれば美味しくなるのか

実はこれが一番の難問です。なにせワインは中身が見えませんから(笑)。お客様からいただく質問の中でも、最も多い質問のひとつでもあります。

ではなぜソムリエは「今が飲み頃です」と自信をもってワインを提供できるのでしょうか。とても単純な話で、答えは「中身を知っているから」です。レストランでは何本も同じワインを開けて提供していますから、自分の店で提供しているワインが現在どの程度熟成しているかをある程度把握しているのです。もちろんボトルにより差はありますが、それも誤差の範囲内です。また、仮に開けたことのないワインがあったとしても、同じヴィンテージ(年代)のワインを沢山開けているので、そのヴィンテージの特徴も経験からわかってきますし、同じ生産者のワインも沢山開けますからその生産者の特徴も知っており、結果、ある程度ワインの状態に予測がつけられるのです。

さらに言えば、飲み頃に入ったワインを見つけて優先的にお客様に提供しているということも考えられます。ソムリエとしてもお客様に喜んでいただきたいですから、「今が美味しい!」というワインを見つけたら、率先してそのワインを「飲み頃です」と言ってお客様に提供するわけです。

さて、ここまでの話だと「ご家庭では判断が難しい」ということになるわけですが、判断材料が全くないわけではありません。


初心者がワインの熟成において一番参考にしやすいのがワインのヴィンテージチャートです。インターネットで検索すると色々なものが見つかると思います。ヴィンテージチャートとは、生産地別に各年代の作柄の良し悪しを評価した表です。自分が保管しているワインが造られたヴィンテージの作柄がどのようなものだったか確認することができます。一般的に当たり年と言われる良年ほど、長期間にわたって熟成することが可能です。対して不作の年は、ハズレ年という可哀想な呼ばれ方をしていますが、「味もハズレ」と勘違いはしないであげてください。良い年に比べて凝縮感や力強さには欠けますが、その分熟成が早く進むため、美味しく変化するのも早いということです。当たり年に比べて価格が安いのもメリットです。

ちょっとマニアックですが、ビオディナミカレンダーというものもあります。月の満ち欠けに合わせてワインのコンディションを予想するというものです。詳細は省きますが、興味のある方は調べてみてください。

個別のワインについてもっと詳しく知りたいという方は、やはりプロに相談するのが一番です。ワインショップの店員さんやレストランにいるソムリエなど、経験豊富な人に具体的なワインの情報やワインのラベルの写真を見せて、いつ頃開けるのが良いか聞いてみてください。しかし、実は「いつ頃開ければ美味しいか」という質問はプロでもなかなか答えづらい部分があります。ワインの味わいにお好みがあるように、飲み頃や熟成感にも人それぞれ好みがあるからです。ですので、まずはワインが一般的にどの程度熟成するのかを知っておきましょう。



ワインはどれくらい熟成するのか

お客様からの問い合わせで意外と多いのが、「10年置きっぱなしだけど、もう飲めないのでは?」等といった長期間置いておいたワインに関するご質問です。ワインの保存状態にもよるのですが、しっかりとした条件で保管されたワインが10年で飲めなくなるということはまずないと思ってください。一般的に赤ワインより要素の少ない白ワインほうが熟成が早いのですが、その白ワインでも10年で飲めなくなるようなことはありません。

ただし、熟成による変化はしていますので、若いころのフレッシュで生き生きとした印象ではなく、落ち着きがあり複雑でしっとりした印象に変化しているはずです。前述のように、この熟成感というものには好みがありまして、特に白ワインについては若い頃のほうが好きという方が多いように思います。熟成した白ワインから感じるナッツの風味やキャラメルのような香りが、良く知っている白ワインとはまったく違う印象に感じられ、違和感を覚えることが多いようです。ですが、この熟成による変化に慣れてくると、熟成した白ワインの魅力が楽しめるようになってきます。

さらにワインによっては30年、50年と美味しく飲めるものもあります。ここまでくるとワイン自体のクオリティやコンディションがとても大事になってくるのですが、50年たって尚、奥底にフレッシュ感を失わない驚異的なワインも存在するくらいです。

さて、一般的な話に戻しますと、極端に安価なワインを除けば白ワインは5年から10年程度、赤ワインでしたら10年から20年は美味しく熟成する可能性があります。やはり経験が大事になってきますので、熟成したワインを飲まれたことが無い方は、安価な熟成ワインにチャレンジしてみましょう。そしてある程度ご自身の好みを理解したうえで、プロに「いつ飲むと美味しいか」ではなく「どの程度熟成していそうか」という質問をしてみてください。そしてご自身が熟成したワインから感じたことや、それが好きか嫌いかなど、具体的な話をしてみてください。ワインに携わる仕事をしている人は大体ワインが大好きですから、喜んで聞いてくれるはずです。向こうの好みのタイミングも教えてくれるでしょう。そのようなコミュニケーションをとることで、ご自身が飲みたい状態とワインの熟成状態について、より正確な相談ができると思います。

このコラムが、皆さまのご自宅で眠る熟成ワインのお目覚めのきっかけになれば幸いです。



まとめ

今回のお話は少し難しい部分もあったかもしれません。それぞれに合った形で出来ることから取り入れてみてください。
ここでひとつ、ワインの飲み頃についてよく言われる言葉を紹介します。それは「飲みたいと思った時が飲み頃」という言葉です。
今までの話は何だったのかと言わんばかりの言葉ですが、“言い得て妙”なところもあります。ワインの変化は目に見えないので完全に予測することは不可能です。わからない事を考えすぎて飲むタイミングを逸してしまってはもったいないですし、どんなタイミングで飲んだワインにもそのタイミングなりの良さがあります。ソムリエ協会の副会長である石田博ソムリエも、お客様に飲み頃を尋ねられると「今です」と回答すると聞いたことがあります。熟成できることから長期保存のイメージも強いですが、人に飲んでもらってこそのワインだからです。
ワインとの出会いは一期一会、同じワインでも出会いの時期が違えば異なる姿をしています。どんな姿をしていても、目の前のワインとの出会いを大切にするという考え方が、ワインを心から楽しむ秘訣のひとつかもしれません。


監修

牧野 重希(まきの しげき)

吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。

  • ・2013年 ソムリエ取得
  • ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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