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読むだけで美味しくなるワインの話(第19回 おうちワインの楽しみ方 ~ワインを楽しむためのタイミング編~)

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ワインを美味しく飲むタイミングとは

今回も、「おうちワインの楽しみ方」としてワインを美味しくするコツをお伝えしてまいります。
第15回でもご紹介しましたが「ワインの味わいに影響を与える要素」は次の5つです。

  • 温度(ワインの温度、室温など)
  • 一緒に食べる料理(飲むワインとの相性など)
  • タイミング(飲み頃、抜栓のタイミングなど)
  • グラス(厚みや形状)
  • シチュエーション(誰とどんなワインを飲んでいるか)

今回のテーマは「ワインを飲むタイミング」です。今までのお話の中で「ワインは変化する飲み物である」ということをお伝えしてまいりました。ワインは、瓶内での長期熟成によって味わいが変わり、抜栓した後の空気との接触によっても味わいに変化がおきます。今回はそのワインにおきる変化をさらに深掘りし、ワインを飲むタイミングについてお話をしていきたいと思います。

  • ワインは開けてすぐに飲むのが美味しいのか?
  • ヴィンテージワインはいつ開ければ美味しいのか? など

仕事柄、お客様から「こんなワインを持っているのだけどいつ開ければいいの?」という質問をよく頂きます。皆さまの中にもそんな疑問をお持ちの方がいるのではないでしょうか。購入したワインを美味しく飲みたいと思うのは当然です。今回はそんな疑問にできる限りお答えしつつ、ご自宅のワインを美味しくするちょっとしたコツ(工夫や予備知識)もお伝えします。



ワインは抜栓したてが一番?

出来たて、とれたて、作りたて、なんでも鮮度が重視されますがワインはどうなのでしょうか。抜栓したてが一番美味しいのかと言えば、その答えはNOと言って良いでしょう。ワインの鮮度が重視されるのは保管までです。個々に差はあるものの、抜栓してから味わいが変化し、美味しくなっていくのがワインです。

ワインは酸素に触れることで香りが開き、果実味が上がり、味わいがより複雑に変化していきます。赤ワインであればタンニン(渋味)の口当たりがなめらかになり、味わいに一体感が生まれてきます。「抜栓したてのワイン」と「時間がたった後のワイン」を比べて飲んだら一目瞭然なのですが、続けて飲んでいるだけでもその変化は感じていただけると思います。ワインの味わいの感じ方には人それぞれ好みがありますので、ワインによっては「抜栓したての味の方が好きだった」なんてこともあるとは思いますが、それを考慮しても、抜栓してからしばらくは美味しく変化すると考えて良いでしょう。



ワインの事前抜栓のすすめ

そこでおすすめしたいのがワインの事前抜栓です。実はレストランではよく使われている手法でもあります。例えばコース料理をお召し上がりになるお客様が、最初に泡・白・赤の3本のボトルワインを注文されたとします。その場合、メインのお肉料理に合わせてチョイスした赤ワインを事前に抜栓しておくのです。そうすることで、メインを召し上がる1~2時間後には、ワインが抜栓したてより良い状態になっているというわけです。

実はこの事前抜栓、なかなか奥が深いのです。皆さまはワインといえば、「飲む直前に抜栓」というイメージではないでしょうか。私はむしろ、事前抜栓が当たり前でも良いと思っています。ボトルでの注文時、レストランでは注文を受けてからしかワインの抜栓ができないので、もう少し時間が欲しいと感じることも少なくありません。

レストランではよくあることなのですが、特に注意したいのが1本のボトルワインを大勢で飲む場合です。通常サイズのボトルであればワインの内容量は750mlなので、6名から7名で飲んだ場合、グラス約一杯ずつで一本のボトルワインが無くなる計算です。そのような状況で直前に抜栓したワインを飲んだ場合、ワインの変化を楽しむ前にそのワインを飲み終わってしまうというわけです。このことを理解しているワインに詳しいお客様は、こちらが提案するまでもなく、お客様の方から事前抜栓をご希望されます。

「グラスに注いだ状態で置いておけば良いのでは?」という意見も出てきそうですが、それがそうはいきません。ワイングラスとワインボトルでは空気との接触量、つまり酸化のスピードが全然違うからです。もともとワインボトルは口がすぼまっていますから、中の空気は大して入れ替わりません。それに対してワイングラスは口が大きく、広い面でワインと空気が接触します。同じ1時間でもその変化は雲泥の差で、ワインをグラスで放置した場合、「ボトルの中でゆっくりと変化した状態」にたどり着くまえに酸化劣化してしまうのです。もちろんワイングラスは空気との接触を促す効果も含めて設計されているのですが、それは短時間の場合のみです。長時間放置するには不向きであると覚えておいてください。

また、個人の好みにもよりますが、事前抜栓はシャンパーニュでも有効です。これも「せっかくの泡がなくなっちゃうのでは?」という声が聞こえてきそうですが、シャンパンの泡は長い時間をかけてワインの中に溶け込んでいるので、そう簡単に無くなったりはしません。若いシャンパンでしたら一時間くらいまでは全く問題ないでしょう。シャンパンそれぞれの個性にもよるのですが、若くて酸味がしっかりしているシャンパンは抜栓したては硬く引き締まっていることが多いのです。一時間ほど前に抜栓しておくと、その硬さが柔らかくなり、果実味がよりわかりやすく感じられるようになります。パーティーで活躍するシャンパンは大勢で飲むことも多いですから、機会があれば是非試してみてください。



事前抜栓のタイミングについて

では、どれくらい前に抜栓するのが良いのでしょうか。ここについてはワインによって様々というのが正直なところです。比較的短時間で大きな変化を見せてくれるものもあれば、極端な話ですが飲み終わるまで開かない(ほぼ変化しない)ワインも存在します。産地やヴィンテージ(収穫年)、生産者等、様々な要因があるのでここは一概には判断できず、ソムリエでも見極めが難しいところです。なので、ここはひとつ初心者の方でも見極めやすいポイントを紹介します。

まず、長めの事前抜栓をおすすめするワインは「旧世界(ヨーロッパ産)のワイン」と「価格の高いワイン」です。反対に、そこまで長い時間を必要としないワインは「新世界(ワイン新興国)のワイン」と「価格の安いワイン」です。もちろんすべてが当てはまるわけではないのですが、理由がありますのでご説明しますね。

まず、ワインの状態を表す言葉して、ワインの香りや味わいがしっかり前面に出ている状態を「開いている」、逆に内にこもって出てこない状態を「閉じている」と表現します。事前抜栓にはこの「閉じている」ワインを開かせる目的があるのですが、ヨーロッパ産のワインは新世界のワインに比べて、抜栓してすぐは閉じているワインが多いのです。理由は主に醸造方法の違いです。

昔からワインを生産してきたヨーロッパ諸国のワインは、主に伝統的な醸造方法で造られています。この伝統的な醸造方法は深みや複雑さを強く感じる反面、フルーツの香りや果実味と言った明るい側面がなかなか顔を出さない特徴があります。逆に、最先端の技術を使ったクリーンな醸造方法が主体の新世界ワインは、フルーツの香りや豊かな果実味が前面に押し出された造りになります。抜栓直後から開いている印象を感じやすい新世界のワインは、事前抜栓する時間も短めで良いということになります。


続いてはワインの価格です。なぜワインの価格が事前抜栓の時間に関係あるかといいますと、価格の高いワインほど凝縮感の強いワインであることが多いからです。

ワインの価格の違いに影響を与える要素のひとつにブドウの収穫量が挙げられます。同じ栽培面積からより少ない収穫量でワインを造った場合、大量生産した場合に比べて1本当たりのコストが上がってしまいますので、低収量であれば必然的にワインは高価になっていきます。しかし、低収量のブドウは一房のブドウの集中力が高く、色々な要素が凝縮された密度の高い良いブドウになるのです。大量に収穫するとその逆で、水っぽいブドウになっていきます。ひとつの木に1個しか実をつけさせないように栽培する高級なメロンやマンゴーと同じイメージです。

その凝縮された果汁がワインになりますから、出来上がったワインもギュッと詰まった密度の高いワインに仕上がるわけです。味わいや香りの成分も含め、すべてが凝縮していますから、なかなかほどけず開きません。なので、香りや味わいが本来のポテンシャルまで上がってくるのに時間がかかるのです。対して価格の安いワインは、高いワインほどの密度が無いので比較的要素が開きやすいということになります。

以上の理由から高いワインには事前抜栓では対応できない固く閉じたワインも多いので、飲み頃自体が先になってしまうことも珍しくありません。そのためワインは高ければ良いというわけではありません。安いワインは長期熟成よりも、比較的すぐに飲むことを想定して作られているので、抜栓してすぐに美味しく飲めることが多いのが利点です。開いてくれないワインばかりでは困ってしまいますから。1万円前後までのワインでしたら、ワインの品質と価格が比例していることが多いので、ワインの価格もひとつの基準にしてみてください。

さて、具体的な時間ですが、おおよそ1~3時間ほど前の抜栓から試してみてください。高価格・高品質のワインでしたら、思い切って当日の朝や前日に抜栓しても面白いでしょう。この話をすると皆さま「酸化して酸っぱくなってしまうのでは?」と心配されるのですが、抜栓したぐらいでは液面と空気の接触面が小さく、ちょっとやそっとじゃ酸化劣化はしません。3,000円以上のワインであれば、抜いた後にコルクを指し直しておけば丸一日置いておいても劣化までいくことはまずありません。レストランでは、わざと横に寝かせてワインと空気の接触を促して提供することもあるぐらいです。逆に変化が感じられないようでしたら、味見程度に少しだけグラスに注いでボトルの中で空気に触れるワインの液面を広げることで、より事前抜栓の効果を高めることもできます。抜栓時間を変えて色々と試してみてください。

また、この話は一日で一本飲み切ってしまうことが前提のお話です。仮に3日に分けて飲めば、事前抜栓をしなくても3日間でそれぞれの違いが楽しめます。ただし、ワインが少なくなってくるにつれて、ワインの液面と空気の接触が大きくなっていきますので、酸化のスピードが速まります。酸化のピークを過ぎれば劣化になっていくので、その前に飲み切ってしまいましょう。以前の回でお伝えした保存方法(第11回)等も参考にしてみてください。

次回は、ワインの適正な熟成期間や長期保存について触れていきたいと思います。


監修

牧野 重希(まきの しげき)

吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。

  • ・2013年 ソムリエ取得
  • ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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