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読むだけで美味しくなるワインの話(第5回 旧世界と新世界? 産地の違いを楽しむ 〜オールドワールド編vol.1フランス〜)

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「ワインについて詳しくなりたい」と思っても、ワインの世界は複雑で難しそうというイメージがありませんか? そこで、ワインにまつわる様々なことをシニアソムリエが優しいアプローチでお教えします。読むだけでワインが美味しくなるようなコラムを、どうぞ召し上がれ。

旧世界(オールドワールド)ってどこのこと?

前回は新世界「ニューワールド」についてご紹介しました。今回は、歴史と伝統あるヨーロッパのワインの世界、「オールドワールド」の魅力をお話しします。ワインの歴史は一説には8000年前に遡り、最も古くからワインを造っていたワイン発祥の地は黒海に面したジョージア(グルジア)といわれています。その後、ヨーロッパ各地に広がったワインは、フランス、イタリア、スペイン、ドイツなどで花咲きました。今回はオールドワールドの代表格、フランスを取り上げたいと思います。

“ワイン王国”フランス

フランスは、ブドウの見本市ともいえるほど様々な国際品種のブドウが栽培され、各産地のワインの特徴がはっきりしています。そのため、ワインとそのブドウ品種を知るための最初の生産国としてうってつけです。
フランスには農業製品の品質を保持するため、AOC(原産地統制呼称)と呼ばれる法律で定められた認証制度があります。その制度では、産地ごとにブドウ品種や栽培・醸造方法、品質に至るまでが細かく規定され、ブドウの個性が最大限に発揮されるよう品種が指定されています。例えば、ブルゴーニュ地方の赤ワインといえば、ブドウ品種はピノ・ノワールでなければ、そのワインはブルゴーニュを名乗ることはできないのです。(一部、ボージョレ・ヌーボーを作る品種として知られるガメイ等が許可されています)それでは、フランスの主要な産地を見ていきましょう。

伝統と最新技術が融合するカベルネ・ソーヴィニヨンの聖地ボルドー

フランスの南西部、大西洋に面したボルドー。言わずと知れたカベルネ・ソーヴィニヨンの名産地です。伝統的な産地ではありますが、貿易と共に発展してきたという特性上、フランスの中でも常に最新の技術が導入されている産地です。骨格のしっかりした力強いワインで、酸味、甘味、渋味といった赤ワインに必要な全ての要素が備わっています。人気のテレビ番組でも度々登場する5大シャトーと呼ばれる高級ワインも、このボルドーの赤ワインです。また、ボルドーではもう一つ有名な国際品種の黒ブドウが栽培されています。それはカベルネに比べて渋味が控えめで、ふくよかな甘味が感じられるメルローです。 ボルドー地方の中心には、大西洋にそそぐように大きな川が流れています。下流に向かって右岸ではメルローの栽培が盛んで、左岸では主にカベルネ・ソーヴィニヨンが栽培されます。右岸と左岸で土壌や気候が違うため、栽培される品種にも違いが出てくるんですね。

永遠の憧れ、「ワインの王」たる豊穣な産地ブルゴーニュ

フランスの中東部に位置するブルゴーニュでは、黒ブドウのピノ・ノワールと白ブドウのシャルドネが主要な品種となります。ブルゴーニュのピノ・ノワールといえば、ロマネ・コンティに代表される世界で最も高値が付く赤ワインの産地です。ちなみに、ロマネ・コンティはグランクリュと呼ばれる最高ランクの格付けがされた畑の名前で、その畑で作られたピノ・ノワールで醸造したワインだけにその名前が冠されるのです。ロマネ・コンティだけでなくブルゴーニュにはたくさんの畑が存在し、その畑そのものが、作られるワインの価値基準となるのもブルゴーニュの特徴です。
またブルゴーニュは、白ワインの産地としても世界随一です。ブドウ品種はシャルドネが中心で、ドライな口当たりとキリッとした酸味が特徴のシャブリは日本でも馴染みがあります。冷涼なシャブリとは逆に南にあるモンラッシェという畑では、ふくよかで力強い、世界で一番高値の付く白ワインが生産されます。
ブルゴーニュは赤ワインも白ワインも、世界のワインラバー達が愛して止まない「ワインの王」として、確固たる地位を獲得した産地といえます。

ローヌ渓谷の多彩な土壌が生む赤ワインの銘醸地ローヌ

ブルゴーニュの南に位置するコート・デュ・ローヌ地方のワインは、ローヌ川両岸の南北250kmに広がるローヌ渓谷で作られます。赤ワインが生産量の80%を占める赤の銘醸地で、様々な個性を持った土壌とその地形からバラエティ豊かな赤ワインが生産されています。
主に北ローヌと南ローヌに分かれており、北ローヌでは急斜面の段々畑から長期熟成型の偉大な赤ワインが生まれ、南ローヌは比較的平坦で広大、病害の心配がない恵まれた気候を生かしたコストパフォーマンスの高い赤ワインが生産されています。
国際品種のシラーは、北ローヌの主要品種であり、ローヌ地方の代表格です。そのスパイシーな香りと、凝縮感のある強い味わいはお肉料理との相性が抜群です。ジビエなどの個性の強いお肉料理とも相性が良く、日本においては「肉食女子とローヌワイン」と銘打って、フランスのローヌワイン委員会自らがお肉とのマリアージュを推進しているほどです。南ローヌのシラーやグルナッシュというブドウ品種を用いた赤ワインは、比較的お手頃に手に入りますので、ぜひお肉とのマリアージュを楽しんでみてはいかがでしょうか。

偉大なリースリングを醸す白ワイン産地アルザス

白ブドウの国際品種であるリースリングの産地といえば、アルザス地方です。アルザス地方はフランスの北東、ドイツとの国境にあるライン川沿いに広がるとても細長い地域です。西にあるヴォージュ山脈のおかげで雨が遮られ、フランスで最も降雨量が少ないワインの産地で、冷涼ながらも日照量があり乾燥しているという恵まれた気候を持っています。その気候から生まれるリースリングは、色濃くピュアで力強い果実味がありながらも豊富な酸とミネラルをもつ芯のあるワインとなります。ものによっては白ワインのロマネ・コンティと称され、30年以上の熟成に耐えられる偉大なワインもあります。アルザス地方は歴史上何度も所有者の変わったワイン産地で、そのたびに戦火にさらされ、葡萄畑を失ってきました。その苦難の中でもあきらめることなく何度も立ち上がり、葡萄畑を再興してきたアルザスの生産者達の心が、ワインの中に生きているように思います。

ロワール川流域に広がる「フランスの庭」ロワール

ロワール地方は、フランス西部を東西約1,000㎞に渡って流れるロワール川一帯に広がる一大産地で、その美しい景観から「フランスの庭」と称されます。ここは、白ブドウのソーヴィニヨン・ブランの産地として有名です。気候が冷涼なため、作られるワインにはレモンやライムといった酸味を感じさせる柑橘系の香りがあり、ソーヴィニヨン・ブラン特有のハーブを感じさせる爽やかな香りがより特徴的に表れます。
ソーヴィニヨン・ブランはロワール川の上流域での栽培が盛んですが、下流域では白ブドウの品種であるミュスカデやシュナン・ブランが代表的な品種となります。大西洋に近い下流で生産されているミュスカデは、フレッシュな柑橘系の香りと軽快な口当たりが特徴で、日本の甲州ともよく似ています。
東西に広いエリアのため、ブドウ品種も幅広く栽培されており、赤ワインではカベルネ・フランの代表的な産地でもあります。カベルネ・フランは、ベリー系の果実味と野菜の青い香り(よくピーマンと表現されます)を感じさせる清涼感のある赤ワインになります。

フランスにおけるブドウ栽培産地の北限シャンパーニュ

シャンパーニュ地方で栽培される主要な品種は、ピノ・ノワールとシャルドネ、ムニエの3つです。多くのシャンパンは、この3つの品種のブレンドによって作られます。輸入国としてトップ3に入るほど日本でも愛されるシャンパンですが、意外と他のスパークリングワインと混同されがちです。世界でシャンパン(シャンパーニュ)と呼べるワインは、このフランスのシャンパーニュ地方で作られたもののみとなります。
シャンパーニュ地方は、フランスの主要なワイン産地としては最も北に位置します。そのため、ブドウ栽培にとっては厳しい土地でもあり、古くから「アッサンブラージュ(調合)」という考え方が生まれました。これは年ごとや区画ごとにワインをストックしておき、出来のあまり良くない年であれば、良い年のワインをブレンドすることで、納得のいくものをリリースするという方法です。この方法を考え出したことは、「ドンペリ」で有名なシャンパンを生み出したと言われるドン・ピエール・ペリニヨンさんの大きな功績とされています。
ただ、発泡するワインを生み出したのは、冷涼な気候による偶然との説が有力です。この地方の悩みであった気温の低さが強みに変わっていく面白いお話です。美しく立ち上る泡を眺めながら、そんなことに思いを馳せるのもいいかもしれませんね。

産地 主なブドウ品種 特徴
ボルドー カベルネ・ソーヴィニヨン(黒ブドウ)
メルロー(黒ブドウ)
大西洋に面した伝統的な産地。高級ワインの5大シャトーで有名。
ブルゴーニュ ピノ・ノワール(黒ブドウ)
シャルドネ(白ブドウ)
ロマネ・コンティに代表される赤ワインの産地。高級な白ワインの産地としても名高い。
ローヌ シラー(黒ブドウ)
グルナッシュ(黒ブドウ)
ブルゴーニュ地方の南、ローヌ川両岸に広がるローヌ渓谷でワイン作りが行われている。
アルザス リースリング(白ブドウ) ドイツとの国境地帯を流れるライン川沿いに広がる、冷涼な産地。
ロワール ソーヴィニヨン・ブラン(白ブドウ)
ミュスカデ(白ブドウ)
カベルネ・フラン(黒ブドウ)
フランス西部を流れるロワール川一帯に広がる一大産地。エリアが広く、栽培される品種も多様。
シャンパーニュ ピノ・ノワール(黒ブドウ)
シャルドネ(白ブドウ)
ムニエ(黒ブドウ)
言わずと知れたシャンパンの産地。フランスの主要産地としては最も北に位置している。

このようにフランスには、たくさんの代表作があり、地域によって様々なワインの歴史があります。奥深いオールドワールドのお話は、次回に続きます。

監修

牧野 重希(まきの しげき)

吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。

  • ・2013年 ソムリエ取得
  • ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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