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お片づけのプロ水谷妙子さんの暮らしの整え方<ものの手放し方編>

暮らし

整理収納アドバイザー水谷妙子さんが考える、「家族が笑顔になる暮らしの整え方」についてお届けしています。第12回目のテーマは「未来への執着を手放せば、今必要なものが分かる。家族のものより、まずは自分のものを整理」です。水谷さん流、ものの持ち方、手放し方を教えていただきます。

目次

  • ポイント① ものを手放せないのは、未来への執着があるから
  • ポイント② ものが多いほど、一つ一つに対する「解像度」は下がる
  • ポイント③ まずは自分のものを手放す。同居家族には無理強いしない
  • ポイント④ 手放したって大丈夫。必要ならまた購入すればいい

ポイント①ものを手放せないのは、未来への執着があるから

家族5人でマンションに暮らしている水谷さん。今でこそ整理収納を仕事にし、すっきりと暮らしていますが、第二子の育休中までは家にはものがあふれていたそうです。

※水谷さんご提供写真

「服はハンガーラックがぎゅうぎゅうになるほどかかっていたし、押し入れはものでいっぱい。奥のほうは見えません。収納用品もたくさん持っていました。その頃は何も考えずものをため込んでいましたが、今振り返って考えれば、全ては自分の欲深さのせいだったと思います。」

「(今は使わないけれど)あとから必要になるかも」「フリマアプリで売れるかも」「誰かが使ってくれるかも」……。こうした、不確実な未来への執着が、ものをため込む原因になっていたと分析しています。

「不安、と言い換えてもいいかもしれません。使いたいと思ったときにそれがもう手元にないことへの不安。まだ使える(売れる)のに、捨てて損をしてしまうかもしれない不安です。」

フリマアプリで売れるかもしれない、という執着に関しては、一般的な価値に対する執着もあるかもしれません。

「高く売れそう、価値がありそう。だから取っておく。でもそれは世間一般の評価であって、自分がそれを必要としているかどうかの評価ではないですよね。かつては私も、結婚祝いでいただいたブランド食器のイヤープレート(年号の入った絵皿)などを長年保管し続けていました。自分では使わないものなのに、いいものだからと手放せなかったんです。自分にとって価値があることと、売れそうだから価値があることは、必ずしもイコールにはならないのかもしれません。」

一般論で判断してしまうと、自分がそれを持っておきたいのかそうでないのかという冷静な判断ができなくなってしまいます。

「商品の箱を取っておく行為も、まさにそう。家電や子どものおもちゃなどは、箱付きのほうが高く売れると思ってしまいますよね。私も、何の疑問も持たずにたくさん保管していて、押し入れは空箱だらけでした。」

押し入れは空箱で圧迫され、本当に必要なものたちが押しやられたり、押し入れに入りきらなかったり……。整理収納を学んでその矛盾に気付いてからは、空箱はすぐに畳んでその日のうちにマンションのゴミ捨て場へ持っていくようになったそうです。

「絵本のカバーや帯も同じです。付けたままだとズレたり外れたり、傷んだりするので外して保管しておくご家庭は多いかと思います。私もそうしていました。高く売れるかもしれないし、薄いし場所を取らないからと。でも結局、子どもが読み込んでボロボロになった絵本を売ることはまれ。取っておいても再びカバーを付ける機会はありませんでした。今は、よっぽどのことがない限りすぐに外して処分しています。」



ポイント②ものが多いほど、一つ一つに対する「解像度」は下がる

未来の執着や不安に加えて問題を大きくしているのは、ものの多さです。

「まだ使える、あとで売れる、と手放すことを先延ばししている間に、新しいものがどんどん家の中に入ってきます。ものが多くなると、一つ一つに意識を向けることは難しくなりますよね。自分にとって必要かどうか、真剣に向き合う心と時間の余裕がなくなってしまうのです。私はこれを、ものに対する解像度が下がる、と呼んでいます。」

よく考えれば(解像度を上げれば)、「これはもう要らないな」と判断できるはず。でも多すぎると、全てのものに対して考えるエネルギーを持つことはできません。

「わが家の場合は、タオルがいい例です。以前は、勤めていた会社でもらった大量のタオルを何も考えずに保管していました。腐るものではないし、持っておいて損はない。いずれ何かに使えると思い込んでいたんです。でもタオルが多すぎて、日々の暮らしでタオルが何枚必要か、なぜこのタオルがいいのかをじっくり考えられていなかったですね。」


※水谷さんご提供写真


キッチン家電も、よく考えずになんとなく持っていたもののひとつ。

「かつてはヨーグルトメーカー、ワッフルメーカーも持っていました。これらも解像度を上げて見てみると、私にはまったく必要ないものでした。私にとって料理はそもそも、あまり時間をかけたくない家事。便利家電が家にあるからといって、わざわざやることはありません。ものに囲まれていたときは、それに気付けていなかったのです。」

そのとき、「管理できる以上のものが家にある」ということにも気付いた水谷さん。自分の性質や傾向を見極めると必要なものが分かるのだと知り、ものを手放すことがスムーズにできるようになったと言います。今、水谷家のキッチンにあるのは、最低限の電気ケトル、トースター、電子レンジ、炊飯器だけです。



ポイント③まずは自分のものを手放す。同居家族には無理強いしない

水谷さんが家のものを手放し始めたのは、約10年前。現在小学4年の息子さんを出産し、育児休暇を取っていたときです。当初、ご主人は家を整理するのにあまり乗り気ではなかったそう。

「元来、人間は変化より現状維持を望むもの。仕事などで変化の激しい環境に身を置いているとなおさら、家の中は今まで通り変わらない空間でいてほしいと思うことは私も理解できます。だから夫には片付けを強要せず、私の持ち物だけ整理するからと話していました。」

育児の合間に選別をし、不要なものをゴミ袋に入れていく日々。ゴミ袋をマンションのごみ置き場に毎朝捨てに行くのはご主人の仕事です。家がどんどんすっきりし、ものが減っていく様子を見て、「じゃあ俺もやるかな」と私物を見直し始めました。このスーツはもう体型に合わないから処分しよう、などと少しずつ意識が変わり、不要なものを手放せるようになってきました。

「片付けをしているとついつい、パートナーや子どもの持ち物が気になると思います。でも、そこに意識を向けすぎても自分が苦しくなるだけ。自分は「捨てたいのに捨てられない」と思っていても、パートナーは「捨てられたくないのに捨てられた」と感じているかもしれません。家族間で感情の行き違いがあると、お互いにストレスがたまって信頼も損なわれます。まずはハードルを下げて取り組めるところを探してみては? クローゼット、書類、化粧品など、自分の判断だけでものを手放せるコーナーはたくさんあるはずです。」

価値観は人それぞれで、大事にしたいものは異なります。水谷家でも、ご主人が好きでコレクションしているスニーカーに関して水谷さんはノータッチ。数、収納方法、手放すタイミングに口を挟むことはないそうです。



ポイント④手放したって大丈夫。必要ならまた購入すればいい

ものを手放せない原因となるのは未来への執着、それぞれのものに対する解像度の低さ。そして、「捨てて後悔したくない」という失敗への恐怖もあるのではないかと水谷さんは考えています。

「例えば、ちょっと高価なホーロー鍋。使っておらず、手放そうかどうか迷っているとします。鍋というものに対する執着ももちろんですが、この鍋を使って料理がもっとうまくなるかもしれない将来の自分。それも手放すような気がするから捨てられなくなると思うのです。でも、鍋があっても自分の性質や能力はそれほど大きく変わりません。本当に料理がうまくなりたいのであればすでに努力しているはずだし、その鍋がなくても料理上手になることだってできます。“もの”に対してそんなに大きな期待を背負わせなくてもいいのではないでしょうか。」

それに、たとえ鍋を手放したとしても、必要だと思えばまた買えばいいというのが水谷さんの考え。

「例えば100個捨て、“あの鍋だけはやっぱり必要だ”と思って買い直したとしても、それほど損はしていないのではないでしょうか。99個のものが減って、収納が整い暮らしやすさも上がったはず。それだけでもうプラスです。おまけに、買い直すとすれば自分が持っていた鍋以上に性能がいいもの、もっとお気に入りになりそうなものに出合える可能性だってあります。」

失敗への根強い恐怖心を取り除けたら、ものの持ち方、手放し方はきっと変わります。

「自分の性質を知り、自身の暮らしと正面から向き合うことです。何をどうやって手放すかという具体的なコツや手放し事例よりも、もっと大事なことだと私は思います。」



教えてくれた人

水谷妙子さん

整理収納アドバイザー1級。夫と中学生、小学生の5人暮らし。無印良品で生活雑貨の商品企画・デザインを13年間務め、500点以上の商品に携わる。2018年独立。お片づけ講座開催、雑誌やWeb、テレビなどで活躍するほか、ホームページ「ものとかぞく」インスタグラム(@monotokazoku)にて片づけやものについての幅広い知識を紹介中。著書に『水谷妙子の片づく家 余計なことは何ひとつしていません。』(主婦と生活社)、『水谷妙子の取捨選択 できれば家事をしたくない私のモノ選び』(主婦の友社)がある。

撮影/木村和敬(blowup studio) 取材・文/佐藤望美 編集/藤島麻衣子(LINUS)

佐藤望美執筆者

ママファッション誌、ライフスタイルメディアを中心に執筆。得意分野は育児、トラベル、ライフスタイル、ファッション。インテリア、片づけ、ミニマリスト関連の書籍を数多く編集。トラベルエディターとして国内外の旅行取材も多く、子連れ旅情報をまとめたウェブサイト「FOOTABY!」を運営中。自身も小学生の子ども2人の子育てに奮闘中。

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