誰でもカッコよくワインが開けられる
蒸し蒸しと暑い時季はスッキリとした白ワインやシャンパンが特に美味しいですよね。ただ、「今日はスパークリングワインで爽やかに」なんて思い立ったものの、「ポンッ!って栓が飛んだらどうしよう」、「泡が噴き出すかも」と不安を感じた経験はありませんか?
また、ホームパーティーでワインを抜栓するシーン、「人前は緊張するし、失敗したら恥ずかしい」「もっとカッコよくスマートに抜栓できたらいいのに」と思うこともあるのではないでしょうか。
そんな方々に読んでいただきたいのが、今回のテーマ「ワインの抜栓」です。
ワインはだいぶわたしたちの暮らしにとって身近なものになってきているのに、ワインの抜栓の仕方を教えてもらう機会があまりありません。でも、ちょっとしたコツさえ知っていれば、ワインは誰でもスマートに開けられるようになります。
今回は、コルク栓のワインから、誰もがちょっとだけ怖いスパークリングワインまで、家庭でも安心して開けられる抜栓方法をご紹介します。あなたもきっとカッコよくワインが開けられるようになりますよ。
シャンパンは「天使のため息」で

最初に、おそらく皆さんが最も不安に感じるスパークリングワインからはじめましょう。「ポン!」と勢いよく大きな音を立てて栓が飛び出してくるので、誰もが緊張するのがスパークリングワインの抜栓ではないでしょうか。ですが、正しい手順で抜栓すれば、あの「ポン!」という音を出さずに静かに開けることができます。
「あの音もお祝い気分になって良い」という方もおられるかもしれません。ですが、実は音を立てずに抜栓するのが基本のマナーなのです。そして、音を立てずに抜栓した時に、そっとガスが瓶口からもれる時の音を、ワインの世界では「天使のため息」と表現します。上品な抜栓に敬意を表した素敵な例えですよね。
皆さんも今日から上手に抜栓して天使のため息を聞いてみてください。
さて、まずスパークリングワインの抜栓に大事なポイントを3つお伝えしておきます。
- スパークリングワインはよく冷やしておく。
- しっかり栓(コルク)を掴めていること。必要であれば滑り止めの布をかぶせる。
- 「引き抜く」より「逃がす」という感覚、力の入れ方を「引く」から「押す」へ
以上を心に留めて、細かい手順にはいっていきましょう。
最初に冷やしておくのが大事なのは、空気は温かいと膨張しているので、中からの圧力が強くなり勢いよく飛び出してしまう原因になるからです。冷蔵庫やワインクーラーでしっかりと冷やしておきましょう。
次に、栓についている金具「ミュズレ」の扱い方です。個人的にはこちらは完全に外さない方が抜きやすいと思っています。素手で握る時は特にですが、金具が滑り止めの役割を果たしてくれるからです。スパークリングワインを開ける時は、この「コルクをしっかり握れている感覚」がとっても重要です。それでも滑るときは、乾いた布などをかぶせて滑らないように工夫しましょう。逆にミュズレを完全に外した場合は、必ず布などをかぶせるようにしましょう。ちょっと裏技ですが、100円ショップで売っているすべり止め用シートを握りやすいサイズにカットして使うものかなり有効です。
さて、針金を回してミュズレを緩めて、瓶口に引っ掛からないようにしっかり開いたら、抜栓に入ります。親指はコルクの頭に添えて、コルクと瓶口の両方に他の指をかけてしっかりと握り込みます。こうすれば、コルクが勝手に飛んで行ってしまうことはありません。もう片方の手でワインボトルの底をもって45度ほど傾けて持つ形にします。その後、ワインボトルとコルクをひねるようなイメージで、ボトルの底を回してコルクを引いていくのですが、ポイントは力の入れ方です。
ゆっくり回しながらコルクを引き抜いていくと、どこかでガス圧によってコルクが勝手に押し出されてくるのを感じるポイントがあります。そのポイントに到達するまでは勢いよく引かないように注意しましょう。そのポイントが来たら、今度はコルクを握り込んだ手と親指で「押す」方向に力をかけてコルクを止めます。瓶内のガス圧によって自然に浮き上がってこようとするコルクを押さえるような状態です。ここまで来たらもう成功です。
後は「押す」力を少しずつ弱めていき、徐々にコルクを外に「逃がして」いきます。後半は若干コルクを斜めにして細い隙間を作り、ガスを抜きましょう。その瞬間に、シュッ~と天使のため息が聞こえてくるはずです。
最後に注意点を一つ、コルクが抜けた後もボトルはしばらく斜めにしたままにしておくと、泡の吹きこぼれを防ぐことができます。ボトルを縦にするとガス圧が一気に瓶口に集中してあふれ出てしまう場合があるからです。
最初は少し慣れが必要ですが、すぐに感覚がつかめるようになると思います。静かに、優しく抜栓する。それだけで、まるでプロのような抜栓になります。

スクリュー抜栓もちょっとしたコツでスマートに
さて、次はいよいよソムリエナイフを使った、ワインのコルクの抜き方です。やっていることはシンプルなのになぜかうまくいかない、そんな疑問を解決するコツをお伝えしていきます。
まず、キャップシール(ボトルの口に巻かれているアルミやプラスチックのカバー)の剥がし方ですが、これはカッコよく剥がすにはそれなりに練習が必要です。きれいにカッコよく剥がしたい場合は、ボトルの首元の一番太い部分(リム)の下をぐるりと一周、上側と下側から2回でカットするのですが、これは切れ味のよいソムリエナイフと慣れが必要です。
そこで私がオススメするのは、キャップシールをすべて剥がしてしまう方法です。この方法、実は現場では決して珍しくありません。保管されたワインとキャップシールの間にはカビが発生していることもあるので、衛生的にはすべて剥がしてしっかり拭き取った方がよいとされています。また、古いワインはコルクの状態を確認する必要があり、そのためにもキャップシールがついているとよく見えません。それにコルクの長さが見えた方が、スクリューをどこまで差し込むかを確認することができるからです。
シンプルに下から縦に切り込みを入れて、全部取ってしまいましょう。これならナイフの切れ味にもそこまで左右されません。
次にスクリューをコルクに刺す作業です。この作業の肝は最初の一刀で、成功するかしないかはスクリューの先端を刺す時にほぼ決着しています。この最初の一刀のコツをお伝えしましょう。
実は、スクリューを刺す位置はコルクの「ど真ん中」ではなく、わずかに端にずらすのがコツです。なぜなら、スクリューの芯はまっすぐではなく、回すことで少し斜めに入っていくからです。
場所を決めたら、スクリューの先端を人差し指で支えて(ゴム鉄砲を撃つような手の状態)、先端を狙った場所に当てて、グイっとねじ込みます。理想は、スクリューの先端がコルクに突き刺さったソムリエナイフが、手を放してもワインの上に自立している状態です。この状態になれば、後はスクリューを回すだけで、コルクの中にスルスルと入っていきます。
次のポイントが「一気に抜こうとしない」こと。スクリューの7割ぐらいがコルクに埋まったら、一度フックをかけて1㎝ほど引き抜きましょう。引き抜くときは、フックを逆の手で握り込むように押さえてしっかり固定するのがコツです。コルクを真上に引き上げるような感覚で力をいれましょう。そのあとにもう一度スクリューを回してすべて差し込んで、同じようにコルクを抜いていきます。
こんな感じに2段階で抜くのがプロの抜栓です。コルクが8~9割程抜けたら、最後は手でゆっくり抜きとりましょう。 音を立てずに「スッ」と抜けると、それだけでプロっぽく見えますよ。
ここで焦って力を入れすぎたり、一回で引き抜こうとしたりすると、コルクが途中で割れる原因になりますので注意しましょう。

スムーズな抜栓に大事なソムリエナイフ
抜栓の感覚、つかんでいただけたでしょうか。次に抜栓の大事なパートナー、ソムリエナイフの話にも触れたいと思います。ナイフの違いは抜栓に大きな影響を与えるからです。
ポイントと言うには心苦しいのですが、初心者ほど「いい道具を使う」ことが抜栓を成功させるポイントでもあります。こう言うと「シャトー・ラギオール」に代表されるような高級ソムリエナイフを買えばよいのかと思われがちですが、そうではありません。昔ながらのクラシックなナイフは、確かに使いこなす姿はとてもスマートですが、扱いが難しく、慣れるまでに時間がかかります。正直プロの私でもすぐには使いこなせません。
私が初心者に圧倒的におすすめするのは「ダブルアクション式」のソムリエナイフです。
2段階でコルクを引き上げる構造になっていて、力をかけすぎず、スムーズに抜くことができるからです。
特に最近は、このダブルアクションのソムリエナイフにもデザイン性が高く、男女問わず手にフィットするモデルが増えてきました。価格もお手頃なものがたくさんあります。
ちなみに私は、ソムリエ実技試験の時には、このダブルアクションのナイフで試験に挑みました。当時はまだダブルアクションのナイフはあまり浸透していませんでしたので、試験官の印象が悪いのではという不安もありましたが、背に腹は代えられません。経験値の少ない私が、スムーズに抜栓するにはこのナイフが一番でした。
今思えば、そのナイフは決して良いナイフではありませんでしたが、駆け出しの私を大いに助けてくれました。今ではダブルアクションのソムリエナイフにも、当時より高機能な、手にフィットするグリップ、カラフルでおしゃれなボディ、軽量で疲れにくい、といった商品も増えていますので、ご自身に合ったものを探してみてください。
それでも、クラシックなシングルアクションにこだわりたいという方には、日本製の高精度なモデルもおすすめです。刃物の町、岐阜県関市のブランド「アスロ」は、価格帯も海外の高級ソムリエナイフよりかなり手頃で、品質が安定しています。さすがの日本の技術力で、買ったばかりでもすぐ手になじむ絶妙な作りは、初心者でも扱いやすいはずです。
もし長く使うのであれば、ソムリエナイフに少し投資をしてみてください。あなたの手になじむ一本がみつかれば、きっと今までよりカッコよい抜栓ができるようになります。

まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回のテーマ、「ワインの抜栓」は文字だけではなかなか伝えきれない部分もあったかもしれません。それでも、なるべく理解してもらえるように、丁寧に解説させていただきました。今回のコラムが少しでも、皆さんのワイン抜栓のハードルを下げることにつながるのを願っています。次の一本はぜひご自身の手でカッコよく抜栓して、楽しいワイン時間を過ごしてください。
監修

牧野 重希(まきの しげき)
吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。
RISTORANTE IMAI:http://www.ristoranteimai.com/
- ・2013年 ソムリエ取得
- ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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