<移動編><旅館宿泊編>と2回にわたってご紹介している「旅先のマナー」。今回の<旅館宿泊編>は、温泉での粋な立ち居振る舞いや、お世話になった人への感謝の気持ちの伝え方など、旅館に宿泊するときに知っておきたい、8つの大切なポイントをご紹介します。これから旅行に行かれる方は、ぜひお出かけ前にチェックしてくださいね。
目次
- ポイント① チェックインが遅れそうなときは事前に必ず連絡を
- ポイント② 床の間に荷物を置くのはNG
- ポイント③ キャリーバッグの扱い方は要注意です
- ポイント④ 風呂敷を上手に使って旅を楽しみましょう
- ポイント⑤ 旅館で“心づけ”を渡すのはこんなとき
- ポイント⑥ 大浴場・温泉では、風呂敷を使って粋な立ち居振る舞いを
- ポイント⑦ お風呂に入るときの8つの心得
- ポイント⑧ 宿をあとにするときは『立つ鳥跡を濁さず』でお互い笑顔になれる
旅館に泊まるときは
ポイント①チェックインが遅れそうなときは事前に必ず連絡を
旅館で料理長自慢のご馳走をいただき、温泉にゆったり浸かって地球のエネルギーを吸収し、心身に栄養補給をする ……というのも、旅の楽しみの一つです。
夕食付で宿泊する旅館の場合、チェックインは17時までに済ませましょう。
交通機関の乗り継ぎがうまくいかず、チェックインが遅れることもあるでしょう。そのときは、遅れると分かった時点で宿に連絡を入れ、何時ごろに着くかを伝えます。
また、アレルギーや苦手な食材があれば、宿の予約を入れるときに伝えておくのも、旅を楽しむマナーです。
ポイント②床の間に荷物を置くのはNG
自分たちの荷物をどこに置くかは、大事な問題です。 荷物を床の間に置く人がいますが、床の間は一段高くなっていることで示されるように、「神様が来られる場所」「神様へのお供えをする場所」という意味があります。飾られているのは、神様のための掛け軸であり、神様へのお供えのお花です。そういう大事な意味のある場所ですから、荷物を置くのはNGです。
旅館によっては、押し入れ風に荷物を置くスペースが設けられているところもありますから、その場合は指定の場所に荷物をしまいます。
板の間があれば、板の間に置くようにします。畳の上でスーツケースを広げると、畳が傷んでしまうからです。
板の間がない場合は、床の間から一番遠い部屋の隅に荷物を置きましょう。
ポイント③キャリーバッグの扱い方は要注意です
最近では旅行にキャリーバッグを持っていく人が増えましたが、旅館の和室に泊まる際は、細心の注意を払ってください。
道路や駅構内、公衆トイレなどにも引っ張って歩いてきたキャリーバッグですから、キャスターの部分は土足と同じです。旅館の部屋に上がる前に、ウェットティッシュで丁寧にキャスターの部分を拭きましょう。旅館への大切な心遣いです。
また、お部屋の中でもキャリーバッグは引きずらずに持ち上げて移動させましょう。特に畳の上でキャリーバッグを引きずるのは、畳が傷みますから、絶対にやってはいけません。
ポイント④風呂敷を上手に使って旅を楽しみましょう
風呂敷は旅のお供にとても便利なグッズです。たとえば写真のように、下着類、Tシャツ、着替えなどは何枚かの風呂敷に小分けして包んでおくと、バッグを拡げたときに、何がどこにあるかがすぐに分かり、とても便利。化粧品や小物類も、巾着やポーチを利用して仕分けします。そうすれば、たとえバッグを開けたままお風呂に行き、仲居さんがお布団を敷きに来たとしても、きちんとした印象を持たれるはずです。整理上手はどんな場合も好感度が高いのです。
また大浴場に行くときに、着替えや必要なものを風呂敷に包んで持っていくと、見た目も可愛く、粋に見えてオシャレです。
脱衣かごに服を脱いだ後、風呂敷を目隠しに広げて被せておくとパッと見も美しいし、すぐに自分の荷物だと分かって便利です。
風呂敷1枚あれば何かと便利。普段から、ステキな柄の風呂敷を何枚かストックしておいて、旅行のときに役立てましょう。
ポイント⑤旅館で“心づけ”を渡すのはこんなとき
「老舗旅館では必ず心づけを渡さないといけない」と思っている人も多いようですが、決してそうではありません。決まりごと、として渡すわけではないのです。
心づけを渡した方が良いのは、部屋担当の仲居さんがいて、特別にその仲居さんに無理を聞いてもらったとき、ご迷惑をかけたときなどです。
たとえば、何かの理由で部屋を替えてもらったときや、お年寄りがいて介助をお願いする場合、子どもが廊下を走ったりして何かとうるさいときなど。あるいは、ジュースをこぼしたとか、子供がおねしょをしたとか、ご迷惑をかけてしまったようなときは、特別に心づけを渡すのが良いでしょう。
心づけの金額の目安ですが、千円ぐらいが相場です。
出かける前にポチ袋を用意しておけば、袋がないと慌てずに済みます。
心づけを渡すタイミングは、その宿の最後の食事を下げてもらうときです。仲居さんが食器類を下げに来たら、そのときにお礼のひと言を添えて手渡しましょう。
ポチ袋の用意の仕方
① ポチ袋の用途はお年玉だけではなく、色々な使い方があります。
② ポチ袋の裏側に「ありがとうございます」とお礼のひと言を。誰が渡したかわかるように、自分の名前を書いておきます。ペンを持っていないときは、部屋に備え付けのボールペンを使って記入します。
③ 千円札は、顔のラインに合わせて、まず一回折ります。
④ さらにもう一回折りましょう。顔を中に入れるイメージです。
⑤ 折ったお金を入れます。このとき、折った千円札の柄の向きに注意しましょう。
ポチ袋がない場合は、白い紙や宿に備え付けの便箋でもOKです。また、懐紙を使うのもおすすめです。懐紙はもともと茶道などで使うものです。お菓子を乗せて渡したり、口元やお皿をぬぐったり、メモや一筆箋代わりに使ったり、いろいろと便利なので、私はいつも懐紙入れに入れて持ち歩いています。
懐紙入れと懐紙。いろいろな柄のものが豊富に出回っています。
懐紙などの紙を使う場合は、二つ折にして、千円札を挟むようにしましょう。お礼のひと言や自分の名前を記入しておくのは、ポチ袋と同じです。
ポイント⑥大浴場・温泉では、風呂敷を使って粋な立ち居振る舞いを
宿に着いたら早速温泉に行き、旅の汗を流しましょう。部屋に用意されている浴衣を着ると非日常が感じられ、さらにリラックスできます。
まず温泉に持っていく浴衣や着替え、タオルなどは、風呂敷でひとまとめにして持っていきます。
風呂敷包の中身の例は、写真の通り。浴衣一式(旅館によっては、靴下もついています)、濡れたタオルをしまえるビニール袋付きの旅館のタオル、洗顔料、基礎化粧品なども。帰りは浴衣を着て、脱いだものをたたんで風呂敷に包んで部屋に戻ります。
浴衣を着るときのポイントは、右側を先に体に当てて、左側をその上から重ねること。
裾(すそ)が広がらないように気を付けましょう。コツとしては、右裾の先を10センチくらい上げておいて、左裾を巻き付けるようにします。裾のところが、心もちすぼまった形になるのがベスト。
浴衣の丈はくるぶしが出ない程度の長さに調節します。くるぶしを出して短く着ていると、昔の漫画に出てくるキャラクターのようなイメージになるので気をつけましょう(笑)
簡単な帯の結び方
① 帯は前で蝶結びにします。
② 長く垂れているほう(①の青い部分)を帯の結び目の上からくるっとくぐらせましょう。
③ 先の部分を引っ張り、形を整えます。
④ 左手で帯の下、右手で帯の結び目あたりを持ち、帯を左回りで後ろに回します。
⑤ 後ろ姿の帯の結び目は、形のよい蝶結びに!
風呂敷包みは写真のように片方の腕に載せ、もう片方の手を添えるように持ちます。このとき、両方の手の指先をそろえると、美しく上品なしぐさに。また、浴衣を着たら、歩幅を小さめにして、内股気味に歩くようにするとキレイです。
風呂敷包みをぶら下げて、足を開き気味に立ったり歩いたりするのはNG。湯上りのさっぱりと粋な雰囲気が台無しです。
ポイント⑦お風呂に入るときの8つの心得
自宅のお風呂と違って、大勢で使う浴場ですから、基本的なマナーを守りましょう。気を付けたい心得は次の8つです。
湯船につかる前に、必ず体を洗いましょう
せっけんを使って洗い、汗や皮脂の汚れをキレイに落としてから、湯船に浸かります。さっとお湯をかけただけで湯船につかる、というのはNGです。
またサウナから出てきたときも、汗を洗い流してから、湯船に浸かるようにします。
タオルや髪の毛はお湯につけない
湯船に浸かる前に、シャワーキャップをかぶったり、ゴムで結んだり、タオルでひとまとめにするなどして、髪をしっかりまとめておきましょう。
桶(おけ)のお湯をかぶるときや、シャワーは周りの人にかからないように注意します
使った桶と椅子は、次の人が気持ち良く使えるようにお湯で流し、きちんと元の位置に戻しておきましょう
サウナではタオルなどを敷いて場所取りをしないこと
空いている場所は誰でも使って良いのがルールです。
脱衣所の中を、ぽたぽた水滴をたらしながら歩くのは、避けましょう
浴室から出るときは、浴室に持ち込んだタオルを使って、体の水気を軽く拭き取ります。
子どもの混浴は未就学児までにしましょう
周りの人も本人も恥ずかしいものです。家族風呂を利用するのもひとつです。
例え雰囲気ある名湯とはいえ、浴室にカメラを持ち込むのはNG
ほかの人の温泉の至福の時を台無しにします。どうしても浴場の様子をカメラにおさめたいなら、貸切風呂の利用を検討してみてください。
ポイント⑧宿をあとにするときは『立つ鳥跡を濁さず』でお互い笑顔になれる
チェックアウトの前に、やっておきたいことがあります。使った湯呑(ゆのみ)やお皿などをバラバラに置きっぱなしにしないで、1か所にまとめておくこと。飲み残しは捨て、軽く水洗いをしておくと自分も旅館の人も気持ちが良いものです。
また見送ってくれる宿の人には、おもてなしに対する感謝の気持ちと、感動したところなどを笑顔できちんと言葉にして伝えましょう。旅先でお世話になった方と記念写真を撮ることも旅の醍醐味。笑顔での別れは、ステキな旅の思い出になります。
まとめ
いかがでしたか? 旅館に宿泊する際に、戸惑いがちな8つのポイントについてご紹介しました。これらは「絶対守らねば」と、眉間にしわが寄ってしまうほど必死になることはありません。ただ、どれも旅先で楽しく、そして気持ちよく過ごすために知っておいてほしい大切なマナーです。以前ご紹介した「ホテルに宿泊するときのマナー」や「ホテルで快適に過ごすために」を合わせて読んでいただくのもおすすめです。これから行かれる旅行が、よりステキになるようにぜひ実践してみてください。
Adviser
井垣 利英(いがきとしえ) (株)シェリロゼ代表取締役 、 人材教育家、 マナー美人塾塾長
名古屋生まれ、東京在住。中央大学法学部在学中からフリーアナウンサー としてテレビ出演。
2002年(株)シェリロゼを起業。20年間で2万人を指導。自社の【会話美人講座】【マナー美人塾】でマナー、プラス思考、話し方などを指導。また全国の企業で、社員研修や講演会を年間100本ほど行う。
やる気とマナーを上げる日本で唯一の専門家。
著書は『ふんわりと上昇気流に乗る生き方』(サンマーク出版)、13万部を突破した『しぐさのマナーとコツ』(学研)など19冊。
シェリロゼ
https://www.c-roses.co.jp/
YouTube
https://www.youtube.com/user/104toshia
取材協力/「光風湯圃べにや」 (福井県あわら市温泉4-510)
編集協力/中西后沙遠(なかにしみさお) 撮影/森武志
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