日本のワイン事情
今回は私たちの国、日本のワインについてお話していきたいと思います。皆さんは日本ワインについてどの程度ご存じでしょうか?
日本はワイン生産国としては後発の発展途上国ですが、いまやほぼすべての都道府県でワインが生産されるようになりました。現在その総生産量は年間約9万kℓ、750mℓのボトル換算にすると、1億2,000万本程度になります。しかし、実はこの生産量のほとんどが海外から輸入された原料(輸入ブドウ果汁)に頼ったものであり、日本で生産されたブドウだけで造られたワインは全体の約18%、2,200万本程度しかありません。ワイン大国であるフランスのボルドー地方では、年間約6億5,000万本相当が生産されていることを考えると、かなり少ない数字であることがお分かりいただけると思います。
日本の国土面積はフランスの7割程度の大きさであり、その約8割が山岳丘陵地帯であるため、農業を行うことのできる土地が少ないという特徴があります。また、日本では昔からブドウを食用として栽培する文化があるため、ブドウの総生産量の1割強しかワイン生産に使われていないことも理由として挙げられます。たとえ、全部ワインにしたとしても、ボルドーには遠く及ばないのですが……。
そんな日本でも近年、ワインの品質向上が進み、ワインに対する法律や規制が以前よりも整ってきました。
ここで最初の質問に戻ります。日本ワインとはどのようなワインなのでしょうか。
輸入された海外産のワインも含めれば国内市場でその存在はたったの約5%と言われています。実際に、スーパー等のワインコーナーでは見かけることはあまり無いのではないでしょうか。さらに言えば、皆さんが目にしてきた日本ワインだと思っていたものは日本ワインではなかった可能性もあります。
今回の記事では、そんな日本ワインについてご紹介します。
日本ワインってどんなワイン?
日本で生産されるワインのほとんどが海外原料に頼ったワインであるにも関わらず、ワイン後進国の日本では、すべてのワインが日本ワインとして扱われてきました。しかし、2018年10月より、「日本ワインとは国産ブドウのみを原料として日本国内で製造されたものに限る」という表示基準が新たに施行されたのです。さらに山梨や長野、北海道といった主要産地で地理的表示制度(G.I.)が導入され、日本ワインの信頼性を高める取り組みが進められていきました。簡単には、「日本ワイン」や「山梨ワイン」を名乗ることができなくなったのです。今まで原料となるブドウの産地が不明瞭だった日本ワインが、産地を大事にする世界のワイン基準に近づく大きな一歩となりました。
ワイン先進国の法整備に比べればまだまだですが、熱処理をした、本来ワインとは呼べないような工業製品がワインを名乗ることができてしまっていた日本において、「日本ワイン」の地位がようやく確立されたと言えます。このことで、海外からも「日本ワイン」という存在が信頼されるようになりました。みなさんも、日本ワインを購入する時は「日本ワイン」と明記されているかどうかをチェックしてみてください。
増える品質の高い小規模生産者、多様性の広がる日本ワイン
日本にあるワイナリーは、そのほとんどが小規模生産者です。そして、その小規模なワイナリーが近年さらに増加しています。かつてのようにヨーロッパと同じようなワインを目指すのではなく、日本らしい、その土地らしい、自分らしいワインを造りたいという動きが盛んです。
代表的な日本のブドウ品種は後述しますが、それ以外にも昔から食されてきた食用のブドウ品種や、日本に自生してきたヤマブドウ系の品種、さらに各々の土地に適したヨーロッパ品種を探して栽培を始めるなど、思い思いの日本ワインを造り上げています。その中には、フランスのワインではないかと勘違いしてしまいそうなほど高級スタイルで高品質なワインから、自然派と呼ばれるスタイルのカジュアルで飲みやすいワインまで色々です。さらに、今では人気が高すぎて入手困難なワインも珍しくありません。
そういう意味で、一言で日本ワインの特徴を語ることは難しいのですが、その多様性こそが日本ワインの魅力でもあります。最近は、日本ワイン専門のワインバーやショップなども増えました。ぜひ色々と試して、あなた好みの日本ワインを見つけてみてください。
押さえておきたい日本を代表するブドウ品種
現在日本では国際的に有名な品種を含め、様々なブドウ品種が栽培されていますが、代表的な日本ワインを造るのに欠かせないブドウ品種2つをご紹介します。これらを通じて、日本ワインがどんなワインかを感じてみてください。
甲州
ワインに興味のある方では、もはや知らない人はいないかもしれません。山梨県が誇る日本の代表的な白ブドウ品種です。日本最大の生産量であり、日本に古くから存在するブドウの中では唯一、ヨーロッパのブドウ品種と同じ、ヴィティス・ヴィニフェラという種の仲間であることがわかっています。約1,000年前に、シルクロードを渡って日本に伝播したと言われています。
甲州を使用して造られたワインは、青リンゴや和柑橘、優しいお花の香りがします。品種の個性と言われる丁子(クローブ)のニュアンスに、まるで日本酒を思わせるような吟醸香も現れます。味わいはスッキリとしていてやさしい。どこか奥ゆかしさを感じるその味わいは、まさに日本の文化を表しているかのようです。
ヨーロッパの白ブドウ品種に比べて酸味が控え目なのも甲州の特徴です。その酸の少なさ、やわらかさが和食ととても良く合うのです。醤油や味噌をはじめとする日本の調味料や和柑橘、日本人の大好きなお寿司との相性も抜群です。まさに日本のブドウ、日本ワインと言えるかもしれません。品質が低迷していた時期もありましたが、現在では、世界のワイン情報発信地であるロンドンの世界最大級のコンクールで金賞を取るワインも現れました。品質面においても世界に認められ始めたのです。
マスカット・ベーリーA
マスカット・ベーリーAは赤ワインを造る黒ブドウ品種、そして甲州とは違い日本で交配された品種です。約100年前に新潟県にある岩の原葡萄園の川上善兵衛氏によって開発されました。現在では日本で2位の生産量を誇り、日本を代表する固有品種としてO.I.V(国際ぶどう・ぶどう酒機構)でも認められています。
マスカット・ベーリーAを使用して造られたワインは、綿あめを連想するような甘やかな香りと、お花のフローラルなニュアンスが楽しめます。イチゴのような赤いフルーツの香りを中心に、ややスパイシーさもあり、香りが非常に華やかです。味わいについては、ドライに仕上げるものから果実味豊かなものまで様々ありますが、総じてやさしさ、やわらかさを感じるのは前述の甲州と共通する日本らしさです。
渋みが穏やかで滑らかなものが多いので、甲州と同じように日本料理との相性が良いのが特徴です。このあたりがワインと料理の面白いところですね。甲州よりも積極的に色の濃い料理に合わせてみてください。焼き鳥ならタレ、豚の角煮やすき焼きなど、みりんや醤油を使ったやや甘味のある和食と好相性です。酸と骨格の強いヨーロッパのワインは、ものによっては砂糖を使い甘味のある日本の料理に反発してしまうこともありますが、マスカット・ベーリーAなら受け止めてくれるでしょう。
まとめ
ここまで簡単にですが日本ワインを解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。日本ワインの多様性はまだまだ広がっていくように思います。東京をはじめ、それぞれの土地で地産のワインが楽しめるワインバーやワインショップがたくさんできています。ヨーロッパのワインを現地に行って飲むのは少しハードルが高いという方にもおすすめです。私は国内を旅行する時はできるだけその土地のワイナリーに足を運ぶようにしているので、皆さんもぜひワイナリーに足を運んで、その土地の日本ワインを飲んでみてください。そうして実際に日本ワインに触れることで、日本ワインをもっと良く知っていただけると思います。この記事をきっかけに、皆さんそれぞれの日本ワインの楽しみ方を見つけていただければ幸いです。
監修
牧野 重希(まきの しげき)
吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。
RISTORANTE IMAI:http://www.ristoranteimai.com/
- ・2013年 ソムリエ取得
- ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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