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読むだけで美味しくなるワインの話(第22回ワインライフを豊かにするデザートワインの楽しみ方)

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デザートワインも色々です

今回はデザートワインについてお話ししましょう。デザートワインとはいわゆる甘口ワインのことですが、そのタイプは様々です。産地や、ワインに甘味を出すための製法にも違いがあります。そのため味わいや香りにも違いが生まれ、少し勉強するだけで皆さんのワインライフの幅が広がります。デザートワインの種類やその特徴を学びつつ、辛口ワインにはない魅力をぜひ感じてみてください。後半では日常的にデザートワインを楽しむコツもお伝えします。


デザートワインの王様、貴腐ワイン

デザートワインとして外せないのが「貴腐ワイン」です。貴腐ワインとは、貴腐菌とも呼ばれるカビの一種がブドウに発生することで、糖度が高くなり、成分の凝縮したブドウで造られているワインです。貴腐菌がブドウの実の表面に穴を開け、そこから水分が蒸発することでブドウの実が干しブドウのように凝縮し、甘み・香りの濃密なブドウが収穫されます。通常ではブドウの病害の一種ですが、特定の条件下で発生することで貴腐ブドウになるという特徴から、造られる場所もある程度限られており、特にフランスの「ソーテルヌ」・ドイツの「トロッケンベーレンアウスレーゼ」・ハンガリーの「トカイ」は世界三大貴腐ワインと呼ばれています。貴腐ブドウから作られる貴腐ワインは、ただ糖度の高い果汁から作った甘口ワインとは違い、貴腐ブドウならではの香りや深みが生まれるため、唯一無二の最高級甘口ワインとして世界中で高い評価を受けています。


デザートワインの種類とその製法

それでは貴腐ワインの他にはどんなデザートワインがあるのかを見ていきましょう。デザートワインは世界各国で作られていますが、代表的な製法をまとめると貴腐ワインの他に次の3つが挙げられます。

アイスワイン

ドイツやオーストリア、カナダで有名な甘口ワインです。冬になり凍結することで成分が凝縮したブドウを収穫し、糖度の高い果汁を得てワインを造ります。シロップのようにブドウの純粋な甘みと爽やかな酸を感じられる透明感のある甘口ワインです。貴腐菌との相性が悪いことから黒ブドウの貴腐ワインはほぼありませんが、アイスワインには黒ブドウで造られたものも存在します。また、現代ではクリオ・エクストラクション(氷果凍結圧搾)という手法を用いて、普通に収穫したブドウを人工的に氷結させてから果汁を搾ることで、アイスワインと同じような甘口ワインも造られています。ただ、前述の代表的な産地では、その高い品質を維持するために、天然で凍ったブドウのみの使用しか認めないといった厳しいルールが課されています。


パッシート

貴腐ワインやアイスワインが環境を選ぶ希少なタイプであるのに対し、どんな場所でも作ることができる代表的なデザートワインがこのパッシートです。いわゆる干しブドウから作るワインで、収穫したブドウを陰干しすることで水分を抜き、糖度を高めて甘口ワインを造ります。乾燥の手法は様々あるようですが、乾燥の均一化を図るために藁の上に広げて乾燥されることがあり、そのような手法で作られたワインを「ストロー(藁)ワイン」と呼びます。貴腐ワインには複雑さでは劣るものの、価格がお手頃なのも魅力の一つです。また、どこでも作ることができる為、実にさまざまな個性豊かなワインが存在します。国内各地でパッシートが造られているイタリアでは、長期間樽で寝かせることでブランデーのような深みのある風味が感じられるトスカーナ州の「ヴィン・サント」や、黒ブドウの濃厚な甘口ワインとなるヴェネト州の「レチョート」が有名です。


酒精強化ワイン

このタイプは、発酵途中のワインにアルコールを添加することで、果汁に糖度が残った状態(まだすべての糖分がアルコールになっていない状態)で発酵を止め、甘口としてワインを造ります。デザートワインとして代表的なのがポルトガルの「ポート」や「マデラ」です。スペインの甘口シェリー「ペドロヒメネス」やフランスの「バニュルス」なども有名です。あえて温度の高い場所で熱を加えて保管することにより酸化熟成を促したタイプも多く、その場合、熱感を感じる独特のフレーバーが特徴として表れます。力強い味わいで、チョコレートとも相性が良いです。

いかがでしょうか。デザートワインと一口にいっても色々なものがあることがお分かりいただけたかと思います。その他にも収穫の時期を遅くすることで糖度を高めた「遅摘みの甘口ワイン」や、干しブドウの状態になるまでブドウの木に置いておいてから収穫する製法まで多岐にわたります。


デザートワインの良いところ

ここまで、いろいろなデザートワインを見てきましたが、デザートワイン共通の良いところとして挙げられるのが「日持ちが良い」ということです。辛口ワインは抜栓してしまえばもって数日、長くても一週間程度が限界ですが、甘口ワインは冷蔵庫で1カ月置いておいても美味しく飲むことができます。ですから、毎日ちょっとずつ食後のデザート代わりに楽しむこともできますし、寝る前などの一日の終わりにちょっとだけ飲んでリラックスして一日を終える、そんな楽しみ方もできます。また、フルボトルは多いなぁと思われる方でも、デザートワインはハーフボトルがとても充実しているので安心です。

さらにアルコール度数が比較的低いものが多いことも特徴の一つです。近年お酒をたくさん飲む方が減っているように感じますが、そんな方にもおすすめです。デザートワインは、ガブガブ飲むというよりはゆっくり少しずつ飲むお酒ですから、お酒が強くない方やあまり飲まれない方でも十分楽しんでいただけます。


デザートワインと相性の良い組み合わせ

デザートワインと料理の相性といえば、有名なのはフォアグラやチーズです。フランス料理において「フォアグラとソーテルヌ(貴腐ワイン)」の組み合わせは、昔からセオリーのように提供されていました。フォアグラはさすがに厳しいですので、ご家庭ではチーズがおすすめです。特におすすめなのが塩分の強い青カビチーズ。「青カビチーズと蜂蜜」の組み合わせはよく目にするかと思いますが、まさにその蜂蜜の役目をデザートワインがはたしてくれますので相性抜群です。もう一つのおすすめはシェーブルチーズ(山羊乳)です。独特の酸のあるチーズなので、甘みのあるデザートワインととても良く調和します。

そして、もちろんスイーツとも相性ぴったりです。レストランでもデザートと共に供されることが多々あります。チーズケーキはもちろんのこと、フルーツともよく合います。フルーツの場合はフレッシュの状態よりも、コンポートにしたものや、ドライフルーツを使ったお菓子などとより相性が良いと思います。前述のチョコレートや香ばしい香りがマッチするキャラメルなど挙げればキリがありませんが、ぜひ色々と試してあなただけのお気に入りを見つけてみてください。



まとめ

さて、ここまでデザートワインの種類や魅力をお伝えしてきましたがいかがでしたでしょうか。デザートワインの魅力を知っていただくことで、皆さんのワインライフがより豊かなものになれば幸いです。

最後になりますが、余ったデザートワインの使い方をひとつだけ。
「バニラアイスにかけて」食べてみてください。豊潤な風味がバニラアイスをよりいっそう美味しくしてくれます。貴腐ワインをかければどんなバニラアイスも高級スイーツに早変わり。おすすめです。


監修

牧野 重希(まきの しげき)

吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。

  • ・2013年 ソムリエ取得
  • ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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