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読むだけで美味しくなるワインの話(第8回 ワインの作法 〜テイスティング編〜)

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「ワインについて詳しくなりたい」と思っても、ワインの世界は複雑で難しそうというイメージがありませんか? そこで、ワインにまつわる様々なことをシニアソムリエが優しいアプローチでお教えします。読むだけでワインが美味しくなるようなコラムを、どうぞ召し上がれ。

テイスティングは味を確かめるためにするものではない?

「ワインの作法」の第2回目では、ワインのテイスティングについて見ていきましょう。ご存知の方もいるかと思いますが、テイスティングとは、「ソムリエがワインをサービスする前に、注文したワインをお客様が確認する作業」です。レストランやテレビ等で、少量のワインをつがれたお客様がクルクルとグラスを回す姿を見かけたことはないでしょうか。あれがテイスティングです。テイスティングなんてしたことない、作法なんてわからない、という人のために、まず「なぜテイスティングするのか?」についてご紹介します。

テイスティングについてのよくある誤解が、「そのワインが美味しいか、美味しくないかを判断するために行っている」ということです。実はこれは間違いで、テイスティングの目的は、「そのワインが不良品でないかを確認すること」にあります。注がれた少量のワインから、香りや味わいに問題がないかを確認します。ゲストへ提供するワインに不備が無いか、ホスト側が毒味のような役割を果たすのです。

ここで、テイスティングをスマートに行うコツをお伝えします。もしワインに問題があれば、そのほとんどが香りに表れます。つまり、問題があるかどうかを判別するためにワインを飲む必要はほとんど無いのです。ソムリエからワインを注がれたら、グラスを回さずに傾け、鼻を近づけて香りを嗅ぎます。そして、ソムリエのほうを向いて一言「お願いします」と言ってみて下さい。ソムリエもこのテーブルでいい加減な仕事はできないと、気を引き締めてくれることでしょう。

20本に1本の割合で出る“不良品”ワインとは?

では、実際にワインの不良とはどんなものかお話したいと思います。不良品のワインにはいくつか種類があるのですが、今回お伝えするのはその代表である「ブショネ」です。これは、ワインの栓であるコルクについた汚染物質によってワインが劣化してしまう現象で、一番多いワインの不良です。コルクの製造工程では、コルクについた細菌を殺菌する消毒作業がありますが、まれに消毒液と細菌が結合して汚染物質が発生してしまうことがあります。その汚染物質の放つ強いカビ臭がワインにも移ってしまうのが、ブショネの正体です。ソムリエが抜栓したコルクの匂いを嗅ぐのは、ブショネを確認しているからなんですね。

ブショネの原因のほとんどはコルクですが、他の木製の素材でも消毒により汚染物質が発生するケースがあります。具体的には、ワインの熟成樽がそのひとつです。製造の過程でワインの熟成樽が汚染され、中のワインが丸ごとブショネという可能性もあります。また、コルクが原因でブショネが発生する度合いですが、天然コルクであればかつては12本に1本と言われるほどの頻度でした。技術の進歩によりだいぶ減ったとはいえ、20本に1本ほどはまだ発生すると言われています。ですが近年、圧縮コルクやスクリューキャップが多く用いられるようになると、ブショネの発生率はワイン全体で1%にまで減っているという報告もあります。上質な天然コルクに比べてコストが低いというだけでなく、ブショネのリスクを減らすという意味もあり、天然コルク以外の栓も広く普及するようになりました。個人的な体感ではありますが、安い天然コルクはかえってブショネが発生するリスクが高いと感じています。

ブショネに出会ったら、どうすればいいか?

では、カビ臭と言われるブショネのワインはどんな香りがするのでしょうか。色々な意見がありますが、湿ったダンボールや古いタンスの臭いなどと言われています。ただブショネには程度があり、軽いブショネであればワインの持つ複雑な香りの一部と誤解され、ブショネと知らずにワインの個性だと思って飲んでしまうケースも実はたくさんあると思います。

ソムリエがいるレストランであれば、開栓時にソムリエが気付き、しっかりとカットしてくれるので安心です。ただし、ホテルでの宴会のように規模が大きな場所では、すべてのワインをソムリエがチェックしているわけではないので、ブショネのワインが提供されてしまうことがあります。 ブショネの香りがわかる方でしたら交換を申し出れば問題ないのですが、判別ができない、もしくは難しい場合には、やや控え目に「少し不快な香りがあるんですが、ワインに問題はないでしょうか?」といった言い方をすればいいと思います。

とはいえ、ワインの香りによほど詳しくないと確信は持てないため、言い出せないことも多いと思います。ですから、レストランを選ぶ指標として、信頼できるソムリエがいるかということもチェックすると良いと思います。実は、かくいう私もソムリエの資格を取ってすぐの頃には、ブショネがわかりませんでした。そのため、知り合いのワインバーにお願いしてブショネが出たら連絡をもらい、仕事終わりに何度もテイスティングした経験があります。結局、自分で開けたワインがとても強烈なブショネだったことがあり、その時の臭いが頭に焼き付いてしまいました。それ以来、軽いブショネでも反応するようになりました。

コスパよりもスピード感!?ボジョレ・ヌーヴォー解禁

「ブショネ」について、お分かりいただけたでしょうか。あまり不良品の話ばかりというのも味気ないので、今回は毎年11月の第3木曜日に解禁となる「ボジョレ・ヌーヴォー」のちょっとした面白いお話をしたいと思います。

日本のボジョレ・ヌ―ヴォーの輸入量は世界の中でもダントツトップを誇ります。そんな日本ではボジョレばかりがピックアップされますが、ヌーヴォー(新酒)自体は他の産地や国でも作られています。諸説ありますが、ボジョレが注目されたのは、ボジョレという場所がフランス全体の葡萄の出来を推しはかるのに丁度良かったからと言われています。

さて表題のお話ですが、新酒を楽しむという特性上、ボジョレ・ヌーヴォーは消費地に少しでも早く運ばれることが求められます。通常、ワインは船便で運ばれることがほとんどで、運搬に2カ月近くを要します。しかし、新酒を楽しむのにそれでは遅すぎるため、ボジョレ・ヌーヴォーは、航空便を使って運ばれるのです。ただでさえ船便よりコストの高い航空便の上に、輸入量トップを誇る日本への航空コンテナのスペースが取り合いとなり、この時期は運送費がさらに高騰。それがワインの価格に反映されてしまうのです。そのため日本では、ボジョレ・ヌーヴォーを現地価格よりかなり高い金額で買わなくてはならないのが現状です。

とはいえ、カジュアルで親しみやすいボジョレ・ヌーヴォーの解禁を祝い、また世界中の人々とつながりながら同じワインを同時に楽しむのはとても幸せなことです。その幸せはお金にはかえられません。今年の解禁日には、年に一度のお祭りを楽しんでみてはいかがでしょうか。


監修

牧野 重希(まきの しげき)

吉祥寺の老舗イタリアン、リストランテ イマイのシェフソムリエ。2007年、料理人を志しリストランテ イマイに入社。2010年よりセコンドシェフとして従事。料理を学ぶなかでワインの魅力に惹かれ、お客様へのより良いサービスとワインの提供を目指し、接客に転向。
2023年からWEBサイト「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」の講師に着任。

  • ・2013年 ソムリエ取得
  • ・2017年 ソムリエ・エクセレンス取得
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