気温差が激しい梅雨の時期は、いつもより疲労感が増す気がしませんか? さらに、疲れているときこそぐっすり眠りたいのに、気持ちに反してなかなか寝つけないことも…。それは、自律神経の乱れが原因かもしれません。
疲労には自律神経が大きく関わっており、そのバランスを整えるための効果的な方法として“入浴”があります。東京都市大学人間科学部教授で、温泉療法専門医の早坂信哉先生に、自律神経のメカニズムと、疲労回復に有効な入浴方法について話を聞きました。
熱すぎ・温まりすぎ注意! 38~40℃のお湯に10〜15分が目安
自律神経は脳から体の器官に情報を伝達する神経のひとつで、人間の心と体をつなぐ重要な役割を担っています。精神状態が崩れると身体に不調が発生するといった具合に、自律神経の乱れは体に大きな影響をもたらすのです。
自律神経には、体を活発にする交感神経と、体を休める副交感神経の2種類があり、24時間を通して交互に優位になります。朝から日中は交感神経が優位になって活発モードになり、午後は副交感神経が上がり始め、夜になると優位になりリラックスします。これが、自律神経の正常なリズムです。つまり、このリズムに沿った生活を送れば、自律神経は乱れにくくなり、疲れなどの不調も起きにくくなる。それこそが、健康の最大の秘訣です。
ところがここ数年は、日々の感染症対策などで気を張っている時間が増え、勤務形態の変化やデジタル生活の加速により、このリズムが乱れ、交感神経が優位になってしまう方が増えているようです。交感神経が過剰に優位になると、ホルモンバランスも崩れ、血流が悪くなって細胞に栄養が届かず、老廃物も停滞。その結果、疲れや免疫力の低下、不眠、病気などを引き起こしてしまいます。
その乱れたリズムを整えるために効果的なのが、“入浴”です。“入浴”には、夜、副交感神経を優位な状態にさせ、安眠に導く作用があります。
自律神経を整え、疲労回復を促す入浴方法
就寝90~120分前までに入る
疲労回復には、眠りはじめの90分間で深い睡眠を得ることが重要で、上がった体温が下がるタイミングで布団に入ると、深く眠ることができます。入浴で上がった体温が下がり始めるのはおよそ90〜120分後。それを踏まえて就寝時間から逆算し、入浴する時間を調整しましょう。
シャワーのみで湯船に浸かる習慣がない方は、“手浴”を取り入れてみましょう。大きめの洗面器や洗面台に42℃くらいのお湯を張り、そこに手首の上まで浸けると、10分ほどで体全体がほんのり温まってきます。また、湯船にお湯が溜まるように、湯船の栓をして湯船の中でシャワーを浴びるのもおすすめです。足元にお湯が溜まって足湯の状態になり、体温が上がりやすくなります。それでも、1週間に1回は湯船に浸かるのが理想です。
ぬるめのお湯に10〜15分浸かる
お湯の温度が高すぎると交感神経が高まってしまうため、38〜40℃のぬるめのお湯に、10〜15分浸かりましょう。一度に10分も浸かれないという場合は、体や髪を洗う前と後など、合わせて10分でもかまいません。
肉体的な疲労には“温冷交代浴”を
スポーツなどで体を動かした後の肉体的な疲労には、“温冷交代浴”がおすすめです。やり方は簡単で、「温かいお湯に3分浸かった後、冷たい水に1分入る」ことを3回繰り返すだけ。温かいお湯に入り体が温まると副交感神経が刺激され血管が広がり、冷たい水に入ると交感神経が刺激され血管が収縮します。血管を広げたり縮ませたりすることで、ポンプの役割で体の末端まで血流が良くなり、筋肉などの疲労物質が除去され、必要な栄養分が行き渡るため、疲れが取れる、という仕組みです。
これは海外のトップアスリートが行う疲労回復法として知られていますが、一般の方におすすめしたいのは、「40℃を少し超えるくらいの湯船と、30℃くらいのシャワー」の組み合わせです。湯船に3分浸かった後、1分間シャワーを浴びます。最初は手足の末端から始めて、慣れてきたら体の中心部まで。同じことを2回繰り返し、最後は温かい湯船に浸かって終わりにしましょう。ただし、負荷が強いので心臓が悪い人や血圧が高い人はかかりつけ医に相談してからにしましょう。
浴室の環境を整える
副交感神経を優位にするためには、浴室の環境を変えてリラックス効果を促すのも一案です。
●香りを楽しむ
洗面器にお湯を入れてアロマオイルを垂らしたり、お気に入りのルームフレグランスや香水を軽く吹きかけても◎。浴室は狭いため、かすかな香りでも広がるので、壁に吊るすなどして生花を飾るのもおすすめです。
●明るさを楽しむ
浴室の明かりを消して、脱衣所の光だけで入浴してみましょう。照明を暗くすると、いつもと違う雰囲気が出るだけでなく、不思議と気持ちも落ち着きます。なお、照明は黄色い電球色がおすすめです。
●音を楽しむ
防水仕様の機器を持ち込むなどして、BGMを流しながら入浴するのも◎。ラジオや好きな音楽、ヒーリングミュージックなどはもちろん、お湯がちょろちょろ流れている音が続く露天風呂や、銭湯で桶を置くときの「カコーン」という音が入った効果音を流すと、家のお風呂とは違った趣を楽しめます。
1日の終わりに、疲れた体を癒やして副交感神経を高める、これらの入浴法を実践し、乱れた自律神経のリズムをリセットしましょう。
監修
早坂信哉先生温泉療法専門医、博士(医学)、東京都市大学人間科学部学部長・教授
地域医療の経験から入浴の重要性に気づき、20年以上にわたって3万人以上の入浴を調査した、お風呂や温泉に関する医学的研究の第一人者。著書に『おうち時間を快適に過ごす入浴は究極の疲労回復術』(山と渓谷社)、『最高の入浴法』(大和書房)など。
写真提供/PIXTA
取材・文/須川奈津江
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